無所属、自宅なし 林大成 SNSで練習相手を募集「全国ステップチャレンジ」のゴールは東京五輪

[ 2020年4月25日 05:30 ]

Challenge 春――新たな挑戦

7人制ラグビー日本代表の林。対戦相手を求めて全国を回り、ステップの技術を磨く
Photo By スポニチ

 ラグビー7人制日本代表の林大成(27)は、年間200日近くある代表合宿や遠征の合間を縫って、SNSで練習相手を募集して各地を回る「全国ステップチャレンジ」をしている。前例なき挑戦を昨年6月にスタートさせ、初めての春を迎えた。これまで10都府県をクリア。所属チームなし、自宅なしの「さすらいのラガーマン」のプロ魂は、新社会人にも参考になるはずだ。 

 予想を上回る反響だった。19年6月、林はツイッターで練習相手を募集した。年齢、性別、レベルは不問。料金は無料。華麗に抜き去る技術の「ステップ」を、一緒に習得しようと呼び掛けた。

 「全国ステップチャレンジ」の発信はすぐに広まった。これまで10都府県を訪れ、計500人と汗を流した。今は新型コロナウイルスの影響を受けるが、「一緒に練習した方が僕を応援してくれる。逆に僕もつながった方を応援できる」と、充実の日々を送る。

 25歳だった18年に、15人制のプロとして在籍したキヤノンを辞めた。日本協会と契約し、国内に数少ない7人制のプロになった。強豪の東海大仰星高、東海大を出た実力派バックス。力強いランを持ちながら、実は「ステップを切れなかった」と打ち明ける。武器を増やすために、「全国ステップチャレンジ」を始めた。

 年間200日ほどある代表活動以外の時間を、他選手は基本的に所属チームで過ごす。しかし、退路を断った林に、それはない。SNSでつながった小学生から大人、バスケットボール、アメリカンフットボールの選手とも汗を流した。

 ステップの理論を伝え、ひらめきを試すうちに感覚をつかんだ。取り組みの広め方にはこだわった。1対1の勝負は、抜いても止められても包み隠さずに動画で公開した。

 「僕が成功だけを見せても、本当のトップ選手の動画と差別化を図れないと思ったんですよ。それに、失敗の動画の方が反応が良かったり、フォロワーが増える。僕が生み出せる価値は、勝ちも負けも表に出して、チャレンジをするストーリーを積み上げることなんだなと思っています」

 インターネットで支援を仰ぐ「クラウドファンディング」で全国行脚の交通費を募った。目標の30万円を超える110万円が集まった。7人制の隠れた人気を知った。支援者には金額に応じて「オンライン交流」、「技術指導」などをした。つながったファンの声は励みになった。

 前例なき挑戦を始めて初めての春。ステップが開花した。3月のワールドシリーズ・カナダ大会、アルゼンチン戦。華麗なステップで瞬時に2人を抜いたトライの動画は、再生11万回を超えた。「昨夏からステップがうまくなって、試合で初めてきれいに決まった。いろんなメッセージをもらいました」。今季4トライはチーム最多。これからというときにコロナ禍に遭ったが、等身大の姿は、多くの共感を呼んでいる。

 「プロって契約形態の話ではないんですよ。熱狂を生み出したり、お客さんを呼べないと、プロじゃないなと。僕は格闘技が好きでよく見るんですけど、格闘家は勝っても負けても数字で価値を問われるから、自分を見てもらおうとアピールをします。そういうのを見て、ですね」

 プロとはどうあるべきかの答えの一つが、「ステップチャレンジ」を通じた交流。技術もファンも自ら切り開いてきた物語は、1年後の東京五輪でクライマックスを迎える。

 ≪ジャパンの合宿 1年の半分以上≫林は自宅を持たないことで知られる。18年に7人制に専念してからは、代表での合宿生活が1年の半分以上を占めるため、移動の効率を考えて各地を転々とする生活を選んだ。このライフスタイルと「全国ステップチャレンジ」の取り組みに賛同したホテル企業から宿泊サービスを提供されている。スーツケース一つで、これまで東京、埼玉、神奈川、長野、大阪、京都、兵庫、福岡、長崎、佐賀を回った林は「チャレンジで全都道府県を回りたいというのはないですけど、都市近辺だったので、もうちょっといろいろ回りたいです」と青写真を描く。全国制覇も夢ではない!?

 ≪今季21戦1勝のみ 苦戦続く日本代表≫7人制日本代表は苦戦を強いられている。ワールドシリーズは昨季が13勝43敗で、今季が1勝17敗3分けだった。フィジー、南アフリカ、ニュージーランド、米国などの強豪との差は顕著だった。

 昨季は15位で下部のチャレンジシリーズに降格。今季はワールドシリーズに招待枠で参戦した。林は「厳しい現実」と受け止めつつも、2シーズンともに試合を重ねるごとに接戦が増えている傾向を踏まえ「戦える実感もある」と前を見る。

 岩渕健輔ヘッドコーチ(HC)は「ビー・ラグビー」を掲げる。ハチ(Bee)のように素早く、しつこく動いて数的有利をつくり、走り勝つ戦術を敷く。

 新型コロナウイルスの影響で、昇格を懸けて争うプレーオフは延期、ワールドシリーズも中断している。

 瀬川智広HC(現摂南大監督)が率いた16年リオデジャネイロ五輪は、ニュージーランド代表から歴史的大金星を挙げて4位に入った。

 ≪恩師がエール≫東海大仰星高の恩師・土井崇司前監督(現東海大相模中・高校長)は「凄くキックがうまいとか、凄いステップがあるというタイプではないが、考え方やキャプテンシーでカバーするタイプ」と林の高校時代を振り返った。当時も主将で、リーダーシップに優れていた点から「人の前に立って、子供に希望を与えるプレーを見せてくれれば」とエールを送った。

 ◆林 大成(はやし・たいせい)1992年(平4)6月27日生まれ、大阪市出身の27歳。瑞光中で競技を始める。東海大仰星で全国8強、東海大で全国4強入りした際はいずれも主将を務めた。ポジションは主にCTB。15年にキヤノン入りし、3年間プレー。U17日本代表。1メートル76、85キロ。

続きを表示

「羽生結弦」特集記事

「NBA」特集記事

2020年4月25日のニュース