追悼連載~「コービー激動の41年」その49 レイカーズを振り回した男
2004年のプレーオフで前年覇者のスパーズと西地区準決勝で再び対戦することになったレイカーズ。ブルズ時代から参謀役を務めるテックス・ウインター・アシスタントコーチは考え込んでいた。レギュラーシーズンではスパーズに対して3勝1敗だったが、最後の対戦となった4月4日の試合では89―95で敗れて連勝が11でストップ。フランス出身のガード、トニー・パーカーに29得点と9アシストを許して負けたことが頭にひっかかっていた。
案の定、スパーズとの初戦は35歳のゲイリー・ペイトンが21歳のパーカーに振り回された。「ある程度、抑え込んでくれる」としていたフィル・ジャクソン監督の予想とは異なり、脚力があまりにも違っていた。ペイトンはイラだって冷静さを忘れてしまう。ジャクソンは途中からパーカーへのマークをコービー・ブライアントに代えたが流れを変えることはできなかった。パーカーに20得点と9アシストを許しただけでなく、ティム・ダンカンにも30得点を献上。40歳のカール・マローンはもはやダンカンのストッパーにはなってくれなかった。
スコアは76―78。ブライアントは31得点を稼いだものの、シャキール・オニールは例によって?フリースローを13本中10本も外し、3秒オーバータイムを2度もコールされ、独壇場であるはずの?ペイント内でもがいていた。
黒星発進から3日後となった5月5日。敵地サンアントニオでの第2戦でも状況は変わらなかった。パーカーにプレーオフ自身最多の30得点を許し、結局第2戦も85―95で敗れて黒星が2つ並んだ。
第3戦は5月9日。場所はサンアントニオからロサンゼルスに変わった。前日の練習でジャクソンは喝を入れた。「今やらなければもう明日はないのだ。これが最後のつもりでやってくれ」。チーム内で不満分子化していたブライアントとの「二者択一」を迫ったために契約更新を打ち切られた指揮官にとってはまさに崖っ縁。ペイトン、ブライアント、マローンといったオフにFAとなる選手たちにとっても残された時間はなかった。
勝つためのヒントはあった。第2戦の終盤、オニールへのロブ(ふわりとした浮き球のパス)は効果的だったからだ。だからセンターにボールを入れるという古典的な戦法が第3戦では核となった。オニールは28得点15リバウンドに8ブロックショット。そして105―81で勝った。NBAのプレーオフでは0勝3敗からのシリーズ逆転は皆無だけに、3戦目は負けるわけにいかなかった。ここで負ければV率0%。そんな絶望的なデータをとりあえずチーム一丸となって握りつぶした。
5月11日の第4戦。今度はスパーズがレイカーズの投じた「変化球」にくらいついてきた。インサイドを捨て、アウトサイドから積極的にシュートを打ってきた。オニールのいるゾーンでの勝負を徹底的に避けてきたのだ。しかし暴行事件の裁判のためにコロラド州の裁判所に出廷したあとにとんぼ返りしてきたブライアントが奮起。ステイプルズセンター到着はティップオフの3時間前というきわどい移動だったが、そのハンデをものともせずに42得点をたたき出した。スコアは98―90。レイカーズは連敗から連勝してシリーズ成績を2勝2敗のタイに戻した。
第5戦は5月13日。再びサンアントニオでのゲームとなる。スパーズはホームで17連勝中。レイカーズにとっては大きなチャレンジとなった。壁を突破するには何かが必要だった。それをやってくれるのはオニールかブライアントか?前半で7点リード。期待感が高まる。だがオニールは前半で3反則。第4戦で42得点を挙げたブライアントもシュートのループが低くなっていた。第4クオーターに入って形勢逆転。ところがジャクソンさえも予想していなかった“名脇役”がNBAの歴史に刻まれることになる奇跡を起こす。72―73で残り時間はたった0・4秒。タイムアウト明けのスローインではブライアントもオニールもスパーズの密着マークにあってボールを手にできなかった。誰もがスパーズの1点差勝利を確信していた。そして電光石火のシュートが宙を舞う。レイカーズは一瞬で敗者から勝者になった。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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