一見コワモテ、日本代表プロップ稲垣啓太 内面に詰まっている素直さが成長に

[ 2019年10月3日 11:56 ]

アイルランドを破り、涙を流す日本の稲垣(右)
Photo By 共同

 「泣いたことないですよ」。本人が否定すればするほど、逆にクローズアップされている日本代表のプロップ、稲垣啓太の“泣いたことがない問題”。4年前の南ア戦では肩を揺らして号泣し、先日のアイルランド戦後はゲーム主将のラブスカフニと抱き合い、男泣きする姿が目撃されている。

 W杯開幕前は「笑わない男」として名前が広まったが、思い起こせば13年秋、トップリーグのルーキーシーズンに群馬県太田市のグラウンドで初めて取材させてもらった時は、理路整然とした受け答えをしながらも、時折ニッコリと笑ってくれたのを思い出す。新潟工時代の恩師である樋口猛監督も「とにかくニコニコしていた。誰からも親しみを持ってもらえるような」と述懐している。

 トップリーグデビュー以来、日本の1番のスタンダードを変えたと言われる稲垣。スクラムの最前線で体を張りながらも、フィールドプレーでもFW第3列並みのワークレートを発揮する。パワーとフィットネス、重さとモビリティー、相反する特性を絶妙なバランスで持ち合わせているからこそ、そうしたプレーを可能にしている。

 野球部だった中学時代には、今より重い130キロほどの体重があった。樋口監督が将来を見越し、本格的にラグビーを始めた高1の時からプロップ一筋だった。サイズだけなら当時から超高校級。だがやがて膝が音を上げ、高2の時に故障。これが転機になった。

 夏休みからダイエットを開始。自宅から約40分かけて自転車通学を始めたが、わずか数週間で何度もパンク。しまいにはスポークが折れ、家まで担いで帰ったこともあったという。代わりに始めたのが食事制限。油物を控え、おかわりは1回に制限。高2冬の修学旅行では、夕食のビュッフェで体つきに似合わず、皿に少しずつしかおかずを載せていない様子を担任の先生に目撃された。「体調でも悪いのか?」「いや、ダイエット中なんです」。その夜、消灯前に担任の先生の部屋のドアをノックした稲垣は、「おなかがすいて寝られません」と言ってきたという。そして「水を飲んで寝ろ」と言われ、素直に従った。

 当時、やんちゃ盛りの17歳。消灯時間を無視し、コンビニに駆け込むくらいのことは簡単にできたはずだが、そうはしなかった。樋口監督は「何よりも彼の素直さが成長につながった。私が指導したのは3年だけ。その後は彼の考え方、マインドが今をつくっていると思う。体格、運動能力のある子は結構いるが、素直さがあるから、あそこまで伸びたと思う」と言う。一見しただけではコワモテだが、内面にはラグビーの世界で大輪を咲かす原動力となる、素直な人柄が詰まっている。

 08年春に日本で開催されたU20世界選手権。FWでは唯一、大学1年でU20日本代表に選ばれた稲垣は、高校卒業前に行われた事前合宿で、当時の薫田真広監督(前強化委員長)がフロントローに課したフィットネスの基準を唯一クリアした。「僕だけがクリアして、大学生は朝5時から薫田さんに走らされています」。樋口監督には当時、そんな報告があったという。(阿部 令)

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