準V錦織「また優勝目指したい」世界一への序章

[ 2014年9月10日 05:30 ]

優勝トロフィーを掲げるチリッチ(左)と悔しそうな表情の錦織圭(AP)

テニス全米オープン最終日男子シングルス決勝

(9月8日 ニューヨーク ビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンター)
 夢は終わらない。男子シングルス決勝で第10シードの錦織圭(24=日清食品)は、第14シードのマリン・チリッチ(25=クロアチア)に3―6、3―6、3―6のストレート負けを喫した。初の4大大会決勝の緊張感にのみこまれ、日本勢の4大大会シングルス初優勝はならなかった。それでも日本のファンを熱狂させた準優勝で、最新の世界ランキングでは11位から自己最高位を更新する8位に浮上。夢のグランドスラム制覇へ、大きな足がかりをつくった。

 何事も無欲で居続けることは難しい。目の前に大きな果実が近づいてくるほど、それは困難になる。日本人初の快挙、というのではなく、自分が追い続けてきた夢。だからこそ錦織の腕は縮こまり、足の動きは鈍った。

 体をほぐそうと何度もその場でステップを踏んだ。息を吐き、肩を上下させた。しかし、いつもなら小気味よく響く打球音は最後までくすんだままだった。「決勝に進めたうれしさと緊張で胸が苦しくなったり、寝つけなかったりした。試合に入り込めなかった」

 入場時も含め、場内の歓声は常に錦織を後押ししていた。だが、その期待に応えるプレーが見せられない。際どい場所を狙ったショットがアウトになり、ネットにかかる。分があるとみられていたラリー戦でポイントを奪われ、決定打はチリッチの半分の19本。ジョコビッチ戦でさえたバックの決定打もわずか2本にとどまった。

  序盤はチリッチも硬かった。しかし、第1セットの第1ゲームで訪れたいきなりのブレークポイント。錦織は逃し、チリッチは守った。これで流れが生まれた。ブレークポイントを握られた5ゲーム全てを落とすなど錦織は粘って流れを引き戻すこともできなかった。予想もしないストレート負けだった。

 「フェデラーが相手の方が気持ち的には戦いやすかったかもしれない」

 チリッチには過去5勝2敗。準々決勝のワウリンカや準決勝のジョコビッチのように格上の相手ではなく、どこかで受け身になっていた。「何回も勝っていて、より優勝を考える気持ちが増えた」。相手のストロークの深さもあったが、縦横無尽に踏み込んで打つ積極的な攻撃が影を潜めた。

 試合後、チリッチがスタンドに駆け上がって喜び、コート上で着々と表彰式の準備が進んでいる間、錦織はただ静かにベンチでうつむいていた。「簡単に来られるところでないのは十分分かっていた。悔しすぎてぼう然としていた」。逃したものの大きさを思い、自分の力のなさを責めた。

 ただし、右足親指の裏側にできた腫れものを手術して切除したのが先月4日。前哨戦2大会は欠場するなど当初は出場すら危うかった。「自分に何も期待しない」状態で迎えた大会としては十分過ぎる結果。写真撮影が続くチリッチを残してコートを去った後、マイケル・チャン・コーチが気づかせてくれた。「ここに来る前は何の希望も持っていなかった。その状況から決勝まで来られたことを評価しているよ」。そう声をかけられ、錦織はようやく敗戦の事実を受け入れられた。

 ぶっつけ本番での復帰から真夜中の激闘、2戦連続4時間超えの死闘、世界1位と炎天下の熱戦といずれも無欲で勝ち上がってきた。同じ気持ちで優勝まで達するにはどうすべきか。答えは出ている。「これからは決勝に出ることを当然と思えるようにするしかない。この悔しさを忘れずにまた優勝を目指したい」。ニューヨークでの夢物語はひとまず終わった。しかし、夢を追いかける錦織の物語はまたここから始まる。

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2014年9月10日のニュース