【川崎Fを支える人】クラブ一筋の伊藤強化部長 ACL優勝へ「ピークをどこに持っていくか」
ACLの1次リーグが、いよいよ15日に開幕する。川崎Fにとって9度目の挑戦で目指すタイトルだ。集中開催の地、マレーシアは高温多湿の上、試合は中2日で6試合。ハードな日程を戦い抜く選手はもちろん、その陰にはクラブで働く多くの人の努力がある。今回は3人の「支える人」を連載で紹介。第2回は強化部長の伊藤宏樹氏(43)。
伊藤氏はその肩書通り、チームを“強化”する人だ。戦力を見極めて編成を行い、目標を達成できる組織をつくり上げる。「監督を中心に準備をしてきましたし、選手も一つの大きな目標にしている。この大会に向けてのモチベーションは凄く高いと思っています」。悲願のタイトルへの思いを口にした。
選手時代に主将を務めた元DFの自身も、07年、09年、10年と3大会でACLの舞台に立った。「僕が最初に出たときは、クラブがようやくJ1に上がったころ。みんなで海外で試合をするのが楽しくてしょうがないという時代だったので、遠征のたびに結束力が強まっていった」。純粋に楽しんで臨める大会だった。
時代は変わり、川崎FはJ1で王者に居続けるクラブになった。ACLの位置づけも変化。「最近は国内でもだいぶ力を付けてきて周りからの期待が多い中で、なかなか結果が出せず苦しんでいる大会かなと」。国内と同じ戦い方ではアジアでは勝てないこともある。試行錯誤しながら優勝を目指す戦いは今回で9大会目となった。
ベスト16で敗退した昨季の前回大会で、学んだことがある。「ピークをどこに持っていくか」。ウズベキスタンで集中開催された1次リーグを突破したチームは、9月の決勝トーナメント(T)初戦で蔚山(韓国)に延長戦の末、PK戦で敗れた。ちょうど酷暑の連戦が続き、谷口、旗手、車屋ら主力にケガ人が続出していた。
「チーム状況が一番良くないときにACLとぶつかって。そこの時期だけだったんですよ、過去2年でちょっとチームとして沈んだのが」。不運な巡り合わせが、一発勝負の戦いに重く響いた。だからこそ今季は「最初の1次リーグは総力戦で突破して、決勝Tに向けてまたチーム力を上げていければ」と教訓を生かして臨む。
どんな状況にも対応できる総合力を上げるためには、若手の台頭が欠かせない。そして連戦の1次リーグはその舞台にうってつけ。「この遠征でチャンスをもらえる選手も出てくると思うんですね。去年もACLから力を付けてどんどん出てきた選手がいた。そういうところに強化としては、凄く期待しています」と熱く話す。
慣れない異国の地での練習。過密日程。新型コロナ下で自由のきかないバブル生活。「苦しい思いをしながら試合に臨んでいく一体感を含めての成長力は、若手なんかは目に見えて伸びる選手も多くいる。そういうところの期待値も含めてもちろん編成はしています」。ただ、誰でも願えば出られるほど現実は甘くない。
「鬼木監督は見る目が厳しい人。単純に試合日程がきついからというだけで出すような監督では絶対にない」。出場できるのは基準を超えて「積み上げてきている」選手だけ。「こういうことを強化が言うのも変なんですけど、そういう選手たちがその場に立てる。そして成長していける」と言った。元選手ならではの言葉だった。
質の高い若手の突き上げがいつもある。それこそが、川崎Fの成功の秘けつでもある。「若手が出てきたらベテランの刺激になる。そこが近年はうまくいっているところ。逆に言うと、若手がどんどん出てきてくれないと、活性化というか血の入れ替えを含めて右肩上がりになっていかない。出てきてくれないと困ります」と笑う。
昨季から主力が抜けた穴にはチャナティップ、瀬古を的確に補強。その上で若手の台頭を見越した構成が成功となるか否かは、選手にも懸かっている。チームはブラジルでリハビリに励むジェジエウを除いて全員でマレーシアに渡った。遠征費は増えるが、より一体感も成長も促すことができる。頂点を本気で狙うための編成だ。
初戦から昨季敗れた蔚山と対戦することも運命的。「この予選リーグを通じて個人もチームも1段2段成長した上で、去年の反省を生かして決勝Tのときにピークをうまく持っていければ、過去最高のベスト8の上のステージに進むことが見えてくるのではないか」。01年に選手として入団後、川崎F一筋22年目。まだ見ぬタイトルへ、強化の立場からチームを突き上げる。
◇伊藤 宏樹(いとう・ひろき)1978年(昭53)7月27日生まれ、愛媛県新居浜市出身の43歳。立命館大から01年に加入。長年にわたってキャプテンを務め、13年シーズンで現役引退後は集客プロモーション部を経て16年より強化部。
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