全国で唯一サラブレッド生産、静内農業高に潜入 大阪出身の高沢君、矢作師に憧れ「夢は調教師」

[ 2022年8月31日 05:30 ]

夏ラボ

静内農業高で夢を追う高沢光希君(右)。小林先生、マドリガルスコアの2021と写真に納まる
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 競馬界の旬なトピックをスポニチ競馬班が独自の視点で掘り下げてきた「夏ラボ」。最終回は全国で唯一、サラブレッドの生産を行う静内農業高等学校に田村達人(29)が“潜入”した。全国各地から夢を持って入学した生徒たち。大阪府大阪市東淀川区出身の高沢光希君(18)は「世界のYAHAGI」こと矢作芳人調教師(61)に憧れ、北の大地にやって来た。

 静内農業高校は、札幌から車で3時間ほどの馬産地・日高郡新ひだか町にある。全校生徒は141人。食品科学科と生産科学科に分かれ、競走馬に携わる生産科学科(園芸、馬コースがある)は1年生が38人、2年生が24人、3年生は16人。生徒のほとんどは中学卒業後に親元を離れ、単身で北海道へ。本校にある「青雲寮」で寮生活を送っている。

 管理する馬は20年北海道サマーセール1歳で同校史上最高額2750万円(税込み)の値をつけたテイエムケントオー(健叶)の母マドリガルスコアを含め12頭。昼間の授業が終わり、馬術や鞍付けなど本格的な実技がスタートする。夢を持つ生徒たちは少しでも学習しようと、汗を流しながら前のめりで顧問の話を聞く。その姿は純粋でとても美しい光景だった。

 3年生の高沢光希君は大阪市東淀川区生まれ。中学3年の時、父と阪神競馬場を訪れ、19年有馬記念をターフビジョンで見た。矢作厩舎のリスグラシューが2着サートゥルナーリアに5馬身差をつけ、ラストランで有終の美。高沢君は「彼女の圧倒的な強さにほれました」と衝撃を受けた。

 「レース後の口取り式をターフビジョンで見ていて、馬の隣にハットをかぶった男性の方が見えた。それが矢作さん(調教師)だと後で知ったのですが、その姿が格好良くて。競走馬と同時に調教師の仕事にも興味を持ちました」

 卒業後は大阪産業大学付属高等学校に進学するも、もっと早く馬のことを勉強したい、という思いで高校2年で静内農業に転入した。「夢をかなえるには騎乗スキルが必要だし、やるなら早いにこしたことはない。理解のある家族は背中を押してくれました」。同級生と比べ、ちょうど1年遅れ。なにわのど根性で懸命にくらいついた。

 寝る間を惜しんで勉強の日々。もともとサッカーで鍛え上げた体幹の強さがあり、みるみる騎乗スキルが上達した。「とにかく楽しい。それが一番です。毎日、ずっと馬のことを考えている」と高沢君。第56回全日本高校馬術競技大会(団体戦)では北海道予選を突破、全国大会に出場した。

 現在は学校の授業とは別に育成牧場に直談判し、ノルマンディーファームなどでスキルを磨く。19年ダービー馬ロジャーバローズを生産した飛野牧場で研修中、憧れの矢作師と偶然出会った。「今までの経緯を話すと“これからも頑張って”と優しい言葉をかけてくれました。うれしかったし、まさか会えるとは…。ネットでも見たことがある、あの黄色のランボルギーニ。全てが格好良かったです」とかけがえのない出来事になった。

 卒業後は馬術のスポーツ推薦で専修大学に進学する予定。高沢君は「大学の後はイギリス、アイルランドなどで馬乗りのキャリアを積みたい。いずれは憧れの矢作厩舎で。夢は調教師です」と目を輝かせた。大きな目標に向かって走り続ける生徒たち。夢かなう瞬間を楽しみに待っている。

 《馬の授業週8時間、県外の生徒が多数》産科学科の馬コースを担任する小林忍先生は静内農業高校の卒業生で、教師としては10年目になる。生徒の1日は午前8時40分に1限目がスタート。英語や数学など6限目まであり、そのうち馬の授業は週8時間ほど。小林先生は馬コースの3年生について「県外から親元を離れ、北海道に来た子がほとんどです。真面目で真っすぐな子が多くて、ちょっとしたことではへこたれない」と評価した上で「馬を通じてたくさんのことを経験して、感謝を忘れない大人に成長してほしい」とエールを送った。

 《北海道サマーセールで生産馬770万円落札「デビュー楽しみ」》26日の1歳馬セリ、北海道サマーセール5日目で静内農業高校が生産した「マドリガルスコアの2021」(牡、父アニマルキングダム)はミルファームが770万円(税込み)で落札した。高沢君は「お産の時から見てきた馬だし、生徒みんなで大事に育てました。昔はやんちゃだったけど今は賢くて言うことを聞く。デビューが楽しみです」と期待を寄せた。

 ◇高沢 光希(たかざわ・こうき)2004年(平16)8月13日生まれ、大阪市東淀川区出身の18歳。中学時代はサッカー部。コミュニケーション能力が高く、後輩からも慕われる。好きな食べ物はチーズインハンバーグ。

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