【エ女王杯】テルツェット95点 響き渡る勝利への三重奏 筋肉、毛ヅヤ、心のゆとり

[ 2021年11月9日 05:30 ]

鈴木康弘「達眼」馬体診断

<エリザベス女王杯>筋肉の柔らかさ、毛ヅヤの輝き、心のゆとりがそろったテルツェット
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 小さな三重奏が牝馬の頂上まで響き渡る。鈴木康弘元調教師(77)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第46回エリザベス女王杯(14日、阪神)ではテルツェットをトップ指名した。430キロにも満たない小さな体から達眼が読み取ったのは筋肉の柔らかさ、毛ヅヤの輝き、心のゆとり。3つの要素が働き合って新女王の座に押し上げる、馬名通りの勝利への三重奏だ。

 小よく大を制すといいます。小さい体でも柔軟に立ち向かえば大きい相手を倒せるとの意味。古代中国の兵法書「三略」の有名な一節「柔よく剛を制す」とともに武道の世界で多用される言葉です。競馬の世界でも小さな馬が柔軟性を武器に大型馬を破ることがある。

 たとえば、イタリア語で「三重奏」(テルツェット)と名付けられた4歳牝馬。小さな体でも非常に柔らかい筋肉をトモと肩、胸にも付けています。この3つの部位の筋肉が働き合って、しなやかな走りを実現している。馬名にふさわしい柔軟な筋肉の三重奏。小さい体を柔らかさでカバーした父ディープインパクトの特長を見事に体現しています。

 しかも、肩とトモの筋肉がせり上がっているため体重以上に大きく見せる。430キロ弱の馬は細く映るものですが、ヒ腹が張って、とてもフックラしています。牝馬にとってフックラした余裕はとても大切。今週末に阪神への長距離輸送が控えているだけになおさら大事です。

 鹿毛の被毛は今春よりも輝いています。毛ヅヤが物足りないと指摘したヴィクトリアマイル(14着)時とは一転、まぶしい光沢を放っている。朝晩の冷え込みで冬毛を伸ばす牝馬が目立ち始めた季節。毛ヅヤが落ちやすい晩秋に春以上の輝きを放っているのはよほど体調がいいからです。

 立ち姿には力みひとつありません。力を入れて立っているアカイトリノムスメ、レイパパレのG1馬とは対照的なゆったりとしたたたずまい。気持ちのゆとりがうかがえる。この立ち姿なら未経験の2200メートル戦にも対応できるでしょう。腹下に奥行きもある中距離体形、疲労がたまりづらい柔らかな筋肉も距離克服を後押しします。(1)走力を生む柔軟性、(2)絶好調を裏付ける張りと毛ヅヤ、(3)落ち着きを伝える立ち姿…競馬に必要な3要素が働き合って、三重奏の凱歌を上げるか。

 小さくとも針はのまれぬ。小さくても侮れないことの例えです。一昨年秋にJRA最少体重優勝(338キロ)を記録したメロディーレーンは有馬記念を目指すとか。エリザベス女王杯の最少体重優勝は15年マリアライトの430キロ(距離変更された96年以降)。小よく大を制すドラマが今年も再現されるなら、その主題歌は三重奏がふさわしい。(NHK解説者)

 ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の77歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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