プール調教は「リフレッシュ効果」だけじゃない!泳いでつかむ“走りの極意”

[ 2020年7月28日 05:30 ]

夏競馬の自由研究

美浦トレセンのプール。直線のほか、円形などがあり、水温は年間を通じ25~27度前後に保たれている
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 夏だ!!プールだ!!競走馬のトレーニングは、コースや坂路での攻め馬だけではない。「夏競馬の自由研究」では、歴史的名馬ディープインパクトやオグリキャップも取り入れていたプール調教を取り上げる。水泳運動が競走馬にもたらすさまざまな効果を理解することが、馬券攻略のヒントにつながるはず。昨年は1万4260頭もの馬が利用した美浦トレセンのスイミングプールを取材した。

 91年に開設された美浦のプール施設。長さ39・3メートルの直線プール、円周44メートル(外周63メートル)の円形プールの他に、練習用の馴致(じゅんち)プール、水中のウオーキングマシンにあたるウオータートレッドミルが2基、設置されている。水は人間が入るプールと同じ塩素濃度。水温はコンピューター制御で25~27度に保たれ、一年中利用が可能だ。

 競走馬総合研究所の研究によれば、競走馬の心拍数はプール調教中が毎分175拍。コースでの追い切り時が同240拍のため、心臓には7割程度の負荷がかかると考えられている。一方で、呼吸回数はコースでは毎分120回を超えるが、プールでは胸に水圧を受けるため、同30回の深く大きな呼吸になる。これが心肺能力を鍛えることにつながるという。いわば、競走馬にとっての高地(低酸素)トレーニングだ。

 また、馬は大きな浮力で水によく浮くため、下肢に負担をかけずにトレーニングができることも大きなメリット。脚元に不安がある馬の調整方法の一つになっている。分速75メートルの水泳が、平地の1F15秒程度の乗り運動の生体負担度に相当。馬体重調整にも重宝されている。

 陣営によってプール調教を取り入れる理由はさまざま。栗田師は「水中でキックしたり、普段とは違う動きをすることで馬体のバランスが良くなる。左右均等に関節を動かすので弱点を鍛えることができる」。後肢に緩さがあったアルクトスは昨春に初めてプール調教を取り入れてから3連勝。重賞ウイナーまで一気に駆け上がった。「何でもかんでもというわけではなく、プール調教が適している馬を厳選している。アルクトスには狙い通り、いい効果が出ましたね」としてやったりだ。さらに、人と馬の信頼関係を構築する上でも、プール調教は効果的だといい、「水に入る時は馬も不安なので人を頼る。そこで人がしっかり誘導してあげれば、コミュニケーションがうまく取れるようになる。扱いやすい馬にする狙いもあるんです」。弱点解消と気性改善。一石二鳥のメリットを明かしてくれた。

 牝馬3冠馬アパパネや有馬記念馬マツリダゴッホにプール調教を取り入れていた国枝師は「脚元が弱い馬のトレーニングや体重を落とす目的が普通だろうけど、ウチの厩舎では主にリフレッシュ効果を狙って利用している。馬をリラックスできる環境に置くことは大切なんだ」。実戦に近い環境であるトレセンに滞在するとテンションが上がってしまう馬は少なくない。3歳クラシック戦線など間隔が詰まる場合はレース間に短期放牧を挟むことが難しいため、プールで気分転換を図る。今年では、マジックキャッスルが桜花賞で12着と崩れた後もプール調教を実施。オークス(5着)までの立て直しに一役買った。

 古くはオグリキャップ。21世紀に入ってからもクロフネ、ディープインパクト、ウオッカ、ロードカナロアなど各ジャンルの最強馬が経験したプール調教。栄冠を目指す競走馬たちが今日も、東西トレセンで泳いでいる。

 ≪水道代は月間120万円≫保有水量は直線プールが210立方メートル、円形プールは630立方メートル。合わせて500ミリリットルペットボトル168万本分と想像が及ばない量だ。水の入れ替えは7、8月のメンテナンス時期に1回のみ。水量が多いため、2、3日程度かかる。普段は循環ろ過システムで対応し、清掃は毎日実施。美浦のプール施設全体の水道代は月間平均で約120万円。

 ≪溺れる心配は?≫水深は直線プールが3メートル、円形プールが2・8メートル。馬が立っても脚はつかない。溺れる心配はないのか。基本的に、馬は大きな浮力で泳ぐ(浮く)ことができるが「個体によって上手、下手の差もあり、ごくまれに溺れそうになる馬もいます」とプール施設の担当者は明かす。入水後に馬がパニックに陥ると危険なため、初期の馴致の段階からプールに飛び込まないように注意し、馬の様子を注視しながら訓練を行う。段階的に流速を強めるなど、事故が起こらないように細心の注意が払われている。

 ≪夏はすいてます≫プールといえば夏のイメージだが、意外にも競走馬のプール利用数は夏季が最も少ない。「夏は(ローカル)滞在競馬の関係でトレセンにいる馬の絶対数が減るため、利用数も減少します」と担当者。他の季節には差がなく、時季を問わずプール調教が取り入れられていることが分かる。曜日別では追い切り翌日の木曜が最も利用が多い。日々のトレーニングの疲れを癒やす効果も期待されているようだ。

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