【フェブラリーS】キッキング90点 柔の機能美

[ 2019年2月12日 05:30 ]

無駄のない完璧なバランスを保ち機能美を見せたコパノキッキング
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 弁慶ドリームの怪力を封じるのは黒い輝きを放つ牛若丸キッキング!?鈴木康弘元調教師(74)が有力候補の馬体を診断する「達眼」。藤田菜七子(21)のG1初挑戦で注目される「第36回フェブラリーS」(17日、東京)では一昨年優勝した怪力馬ゴールドドリームを99点でトップに指名した。菜七子の夢を乗せるコパノキッキングは2位タイの90点だが、達眼が捉えたのは菜七子キッキングの機能美と柔軟性。柔よく剛を制す…。その立ち姿を牛若丸、弁慶を例に挙げながら解説する。

 京都・鴨川に架けられた五条大橋にはコパノキッキングを想起させる有名な逸話が残されています。平安時代末期、巨体を誇る武蔵坊弁慶が1000本の太刀を奪おうと橋を渡る人々を襲います。999本まで集めた弁慶の前に通りかかったのが、被衣(かづき)と呼ばれる女性のかぶり物をまとった牛若丸。後の源義経です。弁慶は女性のように華奢(きゃしゃ)な牛若丸になぎなたを振り下ろしますが、橋の欄干を飛び交いながら身軽にかわされ、最後は返り討ちに遭ってしまう。♪京の五条の橋の上…牛若丸は飛び退(の)いて…燕(つばめ)のような早業に鬼の弁慶あやまった。「柔よく剛を制す」の逸話として旧文部省の唱歌にもなりました。

 五条大橋から東へ30キロ。栗東トレセンの厩舎前にたたずむコパノキッキングの立ち姿は牛若丸に重なります。砂の上を走れるのか…と疑わせるような華奢な体つき。ダートよりも丘の上の芝生で画家のモデルになっているほうが似合いそうな美しいシルエットです。スラリと細い首差し、薄手の腹袋、小ぶりの膝と飛節。筋肉量も少ない。米国産馬らしいごつさが全くありません。弁慶のような屈強さも持ち合わせていない。

 その代わり、完璧なバランスを保っています。鼻先から尾に至るまで全ての部位が寸分の無駄もなくリンクされている。定規で測ったような機能美。およそ不似合いに思えるダートで4連勝させたのは馬体の機能性です。

 立ち方は軽妙洒脱(しゃだつ)。四肢で大地を力強くつかんでいるライバルたちとは対照的に、左後ろの蹄を少し浮かせながら軽やかに立っています。橋の欄干を飛び交いそうな立ち姿。ゴールドドリームやインティなど屈強な馬体の有力馬を弁慶になぞらえれば、こちらは牛若丸です。柔よく剛を制す。当たりの柔らかな菜七子の騎乗も加われば、牛若丸のように弁慶を封じてしまうのか…。ともあれ、女性騎手の記念すべきJRA・G1初騎乗にふさわしい体調です。

 厳寒期でも冬毛を見せず、黒い輝きを放っている。背と腹下の短いスプリンター体形ですが、とても賢そうな目や耳の立て方をしています。ハミのくわえ方には余裕がある。1Fの距離延長にも対応できる気性を備えています。被衣ならぬ覆面をかぶって、平成の最後に頭角を現したダート界の牛若丸です。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の74歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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