【密着!池江厩舎】(10)担当者が語るオルフェーヴルの“素顔”

[ 2013年5月26日 06:00 ]

オルフェーヴルを手入れする森澤さん

 桜井聖良の短期連載は今回で最終回となります。さて、破天荒な王者オルフェーヴルの担当者は、どんな方だと思いますか?あれだけのやんちゃなお馬さんの担当なのだから、さぞかしビシバシされるような方なのかな?と思う方も多いのではないでしょうか?実は担当である森澤さんは照れ屋で、静かにじっくり考えて答えを出すような、オルフェとは真逆のタイプの方なんです。磁石にもプラスとマイナスがあるように、まさにオルフェーヴルと絶妙なバランスを保つ森澤さん。今回の取材にも、一つ一つの質問を自身の中で消化しながら、丁寧に答えてくださいました。

 ――オルフェについて順に聞かせてください。まず初めて出合った時の印象はどんな印象でしたか?

 「それほどやんちゃでもなく、悪さもしなかったですよ。おとなしいなって。今思えば、向こうも様子を伺っていたんでしょうね。馬だけど猫をかぶっていたような(笑い)。でもゲート試験が受かって追い切りをし出したぐらいから、徐々にテンションが上がっていきましたね。それまでは本当におとなしかったです」

 ――私が印象に残っているのは3走目の京王杯2歳ステークスです。ゲート内でものすごい鳴いていましたよね?池江調教師にお聞きしたところ、寂しかったから鳴いていたとのことですが。

 「あの時は子供でしたからね。自分の感情を抑えきれていない感じでした」

 ――ほかに印象に残っているレースは2012年の阪神大賞典です。びっくりしてしまいました!

 「さすがに僕も驚きました。あれを見て驚かない人はいないでしょうが(苦笑)」

 ――故障とは思わなかったですか?

 「それはなかったですね。もし思うとしたらレースに出す前になんらかの不安がある状態で送りだしている時でしょうし。馬体に不安はなかったので故障とは思っておらず、業界用語で言えば“あ、ばかついたな!”って思いました」

 ――レース後、気持ちはいつごろ切り替わりますか?

 「次の日からは切り替えるようにしました。さすがにその日はいろいろと考えましたが。どうしてこんな風になったのかなとか…。あのレースに限らず、勝っても負けても、レース後は毎回反省というか色々考えていますね。もっとこういう調教すればよかったのかな、今度はこうしてみようかなど」

 ――そして昨年の凱旋門賞。最後の最後で差されてしまった惜しい2着でしたよね。どういう気持ちで見ていましたか?

 「正直複雑な気持ちでした。自信はありましたけど、競馬は何があってもおかしくないですからね。いつもそういう気持ちでレースを見ています。負けることのほうが多いのが競馬ですし。もちろん勝って欲しかったですが」

 ――どっしりとされているのですね。

 「比較的そうですね、ですが凱旋門賞の時はちょっと力が入りました。やはり勝ちたいという意識も強かったですから」

 ――凱旋門賞を終えて出走したジャパンカップ。ここでも最後に差されてしまい2着になってしまいましたが、不利が大きかったと思いますか?

 「うーん。不利ではないと思っています。ジャパンカップの時もしっかり仕上げたと自信があったのですが、今から思えば海外遠征帰りで輸送もあり、スケジュールもかなりタイトだったので、本調子まではいってなかったのかな?って。だけどそれを言っちゃうと、じゃあ本調子じゃないのに使ったのかってなりますし難しいですよね」

 ――そこの判断は難しいものがあると思います。自分ではその時、本調子でしっかりと仕上げたと思っていても、結果が出て初めてわかることもあると思うんですよ。

 「そうですね。限られた時間の中で、その時一番いい状態に持っていったと思って競馬をしていますし。だけど今から考えれば、本当の意味で絶好調な状態であれば多少の不利があっても突き抜けていたんじゃないかなって期待込みで思っています。だから不利があったから負けたとは思っていませんね」

 ――今年も凱旋門賞が視野に入っており、2度目の挑戦となるわけですが、森澤さんの中で捉え方は変わりましたか?

 「昨年と比べたらある程度客観的に見えますね。変な意味での緊張もないですし、1回目よりも経験してる分、僕の中でもアドバンテージがありますから」

 ――森澤さんに凱旋門賞への意気込みを聞こうかと思っていたのですが、あまりそういうのを意識していなさそうですよね。

 「意気込みっていうのがないんですよ。よくかわいくないなって言われるんですけど、自分が走るわけでもないし、僕が意気込んだところで何か変わるわけでもないですから。だから僕は自分の仕事をやるだけだなと。きっちりと冷静にレースに合わせてオルフェをいい状態にもっていくことにだけ集中しています」

 ――じゃあ念のため聞きますが、これだけの馬の担当をされていて、プレッシャーなどはありますか?

 「ないですね(即答)。他の馬の時と同じ感覚です」

 ――あ、やっぱりそうですか(笑い)。話は変わって、さっき洗い場でオルフェーヴルの手入れをしていましたが、洗い場でもオルフェはかなり暴れていましたね。その時も強引に止めさせたりもしていなかったのが印象的でした。

 「元気いいでしょう?いつもあんな感じですね。言うことを聞かそうと試したことも以前はあったのですが、あまり効果がなかったですし、変わらなかったので、諦めたというかもう受け止めました」

 ――普段も手入れが大変そうですね。ですが前走(大阪杯)は今までと比べたら大人になった感じを受けましたがいかがですか?

 「多少…多少は(笑い)若干マイルドになったかな?ぐらいですかね」

 ――あの日はG2レースなのにまるでG1並みの会場の雰囲気でした。

 「それは僕も感じました。僕たちが最初にお客さんを見るのはパドックじゃないですか?パドックに入った瞬間、カメラや人の数などにすごいなって。実は僕、パドックではお客さんを結構見ているんですよ。大勢のお客さんが来てくれて本当にうれしかったです」

 ――では最後に、森澤さんにとってオルフェの存在とはなんでしょう?

 「友達みたいな感じですかね?ちょっとすごい友達のような」

 もしかしたら今年の宝塚記念が国内最後のレースになるかもと言われているオルフェーヴル。ぜひみなさんも競馬場に足を運んで、その姿を目に焼き付けてきてください。みんなのパドックでの熱い視線や、コース前での声援も全部届いていますから、相乗効果で熱い競馬日和にしましょう!

 さて、10日間にわたって掲載してきました池江厩舎密着特集記事もこれで最後ですが、みなさんいかがでしたでしょうか?最初にあった勝手な私の中での“池江厩舎は怖い”というイメージは、4日間の密着取材を通して消え去りました。いやむしろ“池江厩舎はフレンドリー”に変わりました(勝手な人?笑い)。本当に明るく優しい雰囲気の厩舎で、最終日には離れるのが寂しくなったぐらいです。

 見える結果と見えない過程での戦い。人は目に見えるものを評価し信じがちですが、意外と大切なことは、見えないところにも存在します。競馬新聞などではなかなか語られない部分をもっとファンのみんなにお伝えしたいと思い、今回厩舎特集をさせていただきました。たかだか何万、何十万頭中の1頭かもしれない。もしかしたら馬券に絡むような馬じゃないかもしれない。それでもそこには必ずその馬へかける思いが存在しています。評価をされる側の見えない戦い、葛藤を知ってレースを見るのも、また味があっていいのではないでしょうか?読んでくださったみなさんに、池江厩舎の魅力やドラマが少しでも伝わっていたらうれしいです。

 ここで今回のプレゼントのお知らせ!10回目のプレゼントは2011年JRA最優秀3歳馬記念として作られたオルフェーヴルの豪華ベストを1名様に!応募方法は携帯サイト「スポニチ競馬」まで。

 ▼桜井 聖良(さくらい・せいら)タレント。競馬予想で来ない人気馬・来る穴馬を選ぶのが得意で、生放送番組でWIN5と予想したメーンレースを全的中させた経験を持つ。2011年から1年半、馬の勉強をする為オーストラリアに留学し、馬のマッサージが特技となった。尊敬する人物は大川慶次郎さんで、憧れる人物は鈴木淑子さん、原良馬さん。

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