44年ぶりの女子復活へ!佐藤摩弥、決意の第一歩

[ 2010年9月15日 06:00 ]

競争車を押してロッカーへ向かう佐藤摩弥

 モトクロスのアイドルから44年ぶりとなる女性オートレーサーへ。オートレース第31期選手候補生の入所式が14日、茨城県下妻市の筑波サーキット内にある選手養成所で行われた。高校時代にモトクロスで活躍した佐藤摩弥(18)と元会社員の坂井宏朱(26)も新たな夢に向かって第一歩を記した。女性2人を含めて20人の候補生は1日の仮入所から引き続き9カ月の本格的な訓練に入り、来年6月のデビューを目指す。

 不安そうだった佐藤の表情が一変した。入所式、記者会見を終え、来年5月の卒業まで9カ月間使用する競走車の抽選が行われた直後だった。10番のナンバープレートが付けられた真新しい500CCのバイクを渡されると、いたわるように磨き始めた。「モトクロス時代からバイクは大切に扱ってきました。バチが当たらないよう、大事にしていきます」。根っからのバイク少女。新たな“相棒”にまたがると、「モトクロスのバイクよりごついですね。スタンドに立てるのも重くて大変。でも、これで実感がわいてきました。スタートラインに立った心境です」と声を弾ませた。
 佐藤は最近まで学業とモトクロス、二足のわらじを履いていた。「高校3年の中間テストはクラスで2位、マラソン大会も女子で2位でした。モトクロスは全日本のチャンピオンを目指して走ってきましたが、練習が忙しいことを言い訳にしたくないので、全部頑張ってきました」。中途半端が嫌いな高校生だった。
 6月4日、高校の体育祭の最中、母親の一報で選手候補生2次試験の合格を知ると、3年1学期で中退。約50倍の難関を突破した佐藤の決断は速かった。「レース場のコーナーは筋力を使うと聞いていますし、本格的に筋トレもしておきたかったから」と言う。
 オートレースとの出合いは佐藤が中学2年の時だった。モトクロスの大会が雨で中止になったため、父親と足を向けたのが川口オート。「ハンドルの高さが左右違っていて、ブレーキもついてない。こんなバイクがあるんだなってビックリしました」。同時に、「一瞬で興味を持ちました。中学生ながら、将来の職業にしたいなと思ったことを今でも覚えています」と振り返る。選手候補生募集は2年に1度行われているが、後にホームページで07年の第30期生募集時から女子に門戸が開かれたことを知る。迷いはなかった。受験可能な年齢(17歳)になった昨年、願書を提出した。
 「モトクロスは父がやっているのを見た兄が始め、私も6歳から乗っています」。05年には中学、レディースのチャンピオンに輝き、全日本女子選手権では上位に入る腕前。モトクロス界では実力を兼ね備えたアイドル的存在として名が知られ、将来は頂点を目指せる逸材だったが、新しい道に進むため、モトクロス人生に終止符を打った。
 7月の全日本モトクロス選手権(岩手県藤沢スポーツランド)も欠場。「仲間が走るので応援には行きました。本当は出場したかったけど、養成所に入所する前にケガはできないし、最後は自分の意志で断念しました」。未練がないといえばうそになるが、欠場することで一層オートレーサーになる決意を固めた。
 「モトクロスでは食べていけない」。厳しい現実と向き合う中、巡り合った職業。これからは「大好きなバイクを職業にしたかった」という夢に思う存分チャレンジできる。
 「1日の仮入所から2週間ですでに男子とは筋力面で差を感じています。早く男子と同じことができるよう頑張ります。でも、女性の方が勝るところを伸ばそうと体重を減らしました」。運動と食生活の見直しで最高51キロあった体重を46キロに落として入所。「バイクを扱うには腕力が必要になるので、まずは腕立て伏せ。あとはランニングや腹筋をよくやりました」と鍛え込んできた。
 「どうせ女子は…と思われないような走りがしたい。プレッシャーはないけど、私たちの結果が今後のオートレース女子に影響すると思うので責任重大ですね」。9カ月の訓練を乗り切れば来年6月にデビュー。44年ぶりの女性レーサー復活にふさわしい素質を秘めたモトクロスのアイドルが、オート界に新風を吹き込もうとしている。

 ◆佐藤 摩弥(さとう・まや)1992年(平4)5月16日、埼玉県生まれの18歳。選手候補生2次試験合格後、埼玉県立鳩ケ谷高校を3年1学期で中退。主なモトクロス実績は05年KIDSモトクロス中学生クラス、レディースクラスともにチャンピオン。08、09年全日本モトクロス女子選手権シリーズランキング7位。1メートル50、46キロ、血液型B。

 ◆選手養成所の訓練内容
 (1)学科 オートレースの概要や小型自動車競走法、関係諸法規、競走用2輪車工学、競走ルール、レースに関する事項、自動車工学など。
 (2)教養 一般社会常識、選手心得、精神修養、メンタルトレーニング。
 (3)実科 競走車の操縦実技(基本操縦、応用操縦、模擬レース)、競走車の整備実技(競走車の特性、構造、整備、修理)。
 (4)その他 オートレースの見学、体育実技、武道(空手)。

続きを表示

2010年9月15日のニュース