紅白歌合戦でのアナウンサーの重要性 NHKラジオ「百年百話」で深掘り

[ 2022年12月5日 08:34 ]

「アナウンサー百年百話」のゲストの高橋みなみと小松宏司アナウンサー(C)NHK
Photo By 提供写真

 【牧 元一の孤人焦点】歌番組で司会が果たす役割は思いのほか重要だ。NHKラジオ第2「アナウンサー百年百話」(水曜前10・30)の今月のテーマは「紅白歌合戦」。過去の紅白を振り返ると、秘められていた側面が見えてくる。

 番組の制作を担当した小松宏司アナウンサー(46)は「紅白の曲紹介の言葉をアナウンサー自身が考えていた時代があった。私も『新・BS日本のうた』の司会を務めた経験があるので、紅白の司会を務めた先輩たちがどのように曲紹介の準備をしてどのような言葉を話していたのかを探りたかった」と番組の発端を話す。

 小松アナは紅白のラジオ司会を3回、ウラトークを1回務めたほか、昨年まで紅白アナウンスチームのまとめ役も担当していた。

 7日放送の第1話では、1951年の第1回紅白にトップバッターとして出場した歌手の菅原都々子(95)のメッセージが紹介される。第1回紅白には藤山一郎さんや東海林太郎さん、渡辺はま子さん、二葉あき子さんら計14人が出場したが、存命は菅原だけで、放送されたラジオ音源も残っていない。

 小松アナは「菅原さんと関係のある事務所、ご家族を通して、第1回紅白の思い出と、司会のアナウンサーとのやりとりで記憶に残っていることを質問させていただいたところ、メールでメッセージをいただいた」と語る。

 番組ではゲストのタレント・高橋みなみ(31)がメッセージを代読。メッセージは「20代前半の私はとにかく早く歌って早く家に帰りたかった。アナウンサーの言葉を聞く余裕もなかったが、穏やかな口調で紹介してくれたこと、緊張の面持ちの私ににっこりと笑顔を見せてくれたことがあったような気がする」という内容だ。

 小松アナは「菅原さんはとても緊張していたのにアナウンサーの口調や表情を覚えていらっしゃるようだ。私も歌番組の司会をした時、番組に出てくださる歌手の方々はどんな心持ちでステージに立たれるのだろうと思っていたが、私たちが思っている以上に私たちの様子をご覧になっているのだと思う。改めて、私たちは温かく歌手の方々をステージに送り出さないといけないと思った」と話す。

 14日放送の第2話では、小松アナが歌手の細川たかし(72)にインタビュー。この中で細川は1983年の第34回紅白の大トリで「矢切の渡し」を歌った時のことを話している。曲紹介したのは鈴木健二アナウンサー(93)だった。

 小松アナは「細川さんは最も紅白で印象に残っているシーンだとおっしゃっていた。あの『矢切の渡し』の歌唱シーンを見返すと、細川さんは1番と2番の間くらいで涙を流している。鈴木健二さんが曲紹介で『ついに来ました。今年の歌い納め』と言ったところでジワッと来て、『僕はサラリーマン歌手です。いつどこでも、やあ細川くんと呼びかけられる人間でありたいのです』という言葉が心に染みたようだ。細川さんはアナウンサーによる曲紹介について『料理で言うと、俺が魚で、アナウンサーが板前』とおっしゃっていた」と話す。

 自身が準備した言葉によって歌手を泣かせるアナウンサーは司会者の域を超えて演出家の域に達しているかもしれない。

 小松アナは「想像以上に歌手の方々は私たちの言葉で気持ちを作られているのだと思った。ゲストの高橋みなみさんも、グループ卒業の際に出場した紅白の曲紹介で『たかみなさん卒業』という言葉を聞いてジーンと来たとおっしゃっていた。アナウンサーの役割は大きいと思う」と語る。

 21日放送の第3話以降さらに紅白でのアナウンサーの曲紹介に関して深掘りされる。今年大みそかに紅白司会の1人、桑子真帆アナウンサー(35)の話しぶり、奮闘ぶりを楽しむための予習にもなりそうだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

続きを表示

2022年12月5日のニュース