安田顕は変幻自在 「誰かに求められていたい」反骨心とエゴを糧にしてきた個性派

[ 2021年12月19日 05:30 ]

柔らかい表情を見せる安田顕(撮影・久冨木 修)       
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 【俺の顔】俳優の安田顕(48)は変幻自在だ。トランスジェンダーや宇宙人などあくの強いキャラクター、時には犬にまで扮する幅の広さでさまざまな作品を彩ってきた。一方で、小市民的な“普通の人”を演じた時の印象も深く刻まれているから不思議だ。常に「ここでやめたくない。誰かに求められていたい」という反骨心とエゴを糧にしてきたという個性派は、さらなる成長を求め円熟へと向かっている。

 目力に引き込まれるくっきりとした精かんな顔立ち。各パーツの微妙な変化でさまざまな感情を想起させる。この顔の土台をつくったのが大学の演劇研究会での森崎博之(50)との出会いだった。

 「お芝居の楽しさ、見てもらうことに向けて取り組む一生懸命さを学びました。お客さんの反応が生で返ってくるのが楽しかったですね」

 2人に大泉洋(48)らが加わり演劇ユニット「TEAM NACS」を結成。卒業公演の1回のみで解散し、安田は一般企業に就職するが、1年足らずで退職し芝居の世界に舞い戻る。その理由を「逃避」だったと明かす。

 「逃避のよりどころがお芝居だったというのが正しいと思います。置かれた場所で常にいることが自分の時代の美徳だったのですが、逃げてもそこから始まる成功もあると思ったんです」

 地元の北海道では、再結成したNACSの舞台以外にもバラエティー番組で体を張り、大泉がレギュラーだった「水曜どうでしょう」では当初、マスコットの着ぐるみでの出演だった。ただ、上京して一旗揚げようという心境にはならなかった。

 「決してお芝居だけで食べられる土壌ではないけれど、続けることに対して意固地になっていたところもありました。TEAM NACSの東京での初めてのお芝居で“初の地方公演です”と言ったことを覚えています」

 それがきっかけで東京のプロダクションと提携するのだから人生分からない。06年のNHK大河ドラマ「功名が辻」の宇喜多秀家役で注目され、その後は映画、ドラマ、舞台を問わずオファーが続くようになる。

 「どういう形で役が来たのであれ“あなたができると思ったからです”という答えにウソはない。自分にはそういう要素があるんだと思って取り組むことが自分にとってのモチベーションです」

 どれほど多忙になっても求められることを意気に感じ、その都度反省を繰り返しながら仕事にまい進する姿勢を貫いている。

 「30代前半は自分がどう映ればというエゴが非常に強かったと思います。こんちくしょうという悔しさから出てくる反骨心も絶対に必要だった。ただ、相手に対する思いやり、感謝も絶対に必要で、そのあんばいをきちんと取っていけるようにならなければ先はないと思ったのは最近です」

 役の幅広さは誰もが認めるところ。公開中の主演映画「私はいったい、何と闘っているのか」でも“普通の人”を実に味わい深く演じている。特にクライマックスで見せる泣き笑いのような表情が絶妙だが、そこに本人にとってのコンプレックスもあるという。「口が曲がってきれいに笑えない、眉間が主張しすぎることが嫌だと思っていて、指摘されると少し恥ずかしくなったりします。でも、他者から見ればチャームポイントとして映っているのかなという気はします」

 ベテランの領域に入り、大好きな酒の飲み方も麦焼酎の炭酸割りから豆乳割りに変化。酒量が減らない悩みはあるが、なじみの店で出会った見知らぬ客との“飲みニケーション”の重要性も説く。

 「居酒屋やバーのご亭主や常連さんから学ぶことは多いですね。どんな職業、役職であろうと、決して職場では聞けない愚痴も聞けるし、その人の本質も何となく感じることができる。それが、自分の生き方、考え方に大きくフィードバックされるので、これからも必要でありたいなと思っています」

 いつか偶然にカウンターで隣り合わせ、さらに本質を探ってみたくなった。

 《「ささやかな幸せ込められた」新作映画》安田は18日に都内で「私はいったい…」の公開記念舞台あいさつに出席。「最近とみに些細(ささい)な日常、ささやかな幸せに感じ入ることが多くなった。それがこの映画に込められているので、皆さんも感じながら見てほしい」としみじみ話した。2度目の夫婦役での共演となった小池栄子(41)は「優しくて包み込んでくれる。大泉洋みたいに細かくない。どっしりとした大きな愛があります」と絶賛。安田が慌てて「私の発言ではないですからねえ」と念押しし、会場を笑いに包んだ。

 ◇安田 顕(やすだ・けん)1973年(昭48)12月8日生まれ、北海道出身の48歳。大学時代に地元の芸能プロダクションに加入し、タレント活動を始める。2001年「man―hole」で映画初主演。08年、TBS系「親孝行プレイ」でドラマ初主演。主な映画主演作は16年「俳優亀岡拓次」、18年「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」など。22年も「ハザードランプ」「とんび」の公開を控える。

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