ABBA 40年ぶりの新作「ヴォヤージ」 時の流れと技術の進歩が開いた宝石箱

[ 2021年11月9日 08:30 ]

復活したABBA(C)Baillie Walsh
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 【牧 元一の孤人焦点】ABBAの新作を聴くことは永遠にないと思っていた。

 2010年にニューヨークで行われた「ロックの殿堂」授賞式。ABBAのメンバーのベニー・アンダーソンとフリーダことアンニ・フリッド・リングスタッドが出席し、フリーダが「私たちが一緒に歌わなくなってもう28年になる。時間がたち過ぎていて、再び一緒に歌うことはこれからもないと思う」と語ったからだ。

 ABBAは、ベニーとフリーダ、ビョルン・ウルヴァースとアグネタ・フォルツコグが夫婦だったが、それぞれ1979年、81年に離婚し、83年から活動を休止して、事実上、解散に至っていた。現在は4人とも70歳を超えている。

 ところが、今年9月、驚くべきニュースが届いた。「ABBA復活!」「2022年5月27日からロンドンの特設アリーナで、10人編成の生バンドとデジタル的に共演する革命的なコンサートを開催」「21月11月5日に完全新作のスタジオ・アルバムを全世界同時リリース」という内容。人生は何が起きるか分からない、ということを実感した。

 4人は1981年の「ザ・ヴィジターズ」以来、40年ぶりとなるスタジオ・アルバム「ヴォヤージ」発売に際し、このようにコメントしている。

 「再びレコーディングを行うことに私たちを駆り立てた最大のインスピレーションの源は、想像を絶するようなコンサートの製作に関わったことだった。来春、ロンドンの特設アリーナで、デジタルで再現された私たちABBAが自分たちの曲をステージ上で演奏する様子を、私たち自身も観客席に座って見ることができるようになる。不可思議だが素晴らしい」

 デジタル版ABBAは、ジョージ・ルーカス氏が設立したインダストリアル・ライト&マジック社が音楽分野に初進出する試み。ABBAの4人が同社の850人のチームとともに、モーションキャプチャやパフォーマンステクニックを駆使し、数カ月もかけて作り上げた。

 ベニーは「コンサートが開催されるとしたら、それに合わせて新曲がいくつか必要になることは分かっていた」と話す。4人はストックホルムにあるベニーのスタジオに再集結し、4年の歳月をかけて計10曲をレコーディングしたという。

 アグネタは「スタジオで再会した時は、これから何が起こるのか、私にも見当がつかなかった。でも、とても和気あいあいとした安心できる環境だったので、いつの間にか心から楽しんでいた」と語る。

 静かに始まる1曲目「アイ・スティル・ハヴ・フェイス・イン・ユー」。途中からソプラノのアグネタとメゾソプラノのフリーダの声が溶け合う時、ABBAというグループの特性を強く感じる。大ヒット曲「ダンシング・クイーン」も、この2人が一緒に歌ったからこそ、輝きが増したのだ。

 4曲目「ドント・シャット・ミー・ダウン」はポップで、胸が躍る。1970年代に世界のファンを夢中にさせたキャッチーなメロディーが2020年代によみがえった。

 時の流れと技術の進歩に、不快になることもあるが、今回ばかりは快哉(かいさい)を叫びたい。永遠に閉じられたはずの宝石箱のふたを開けたのは、紛れもなく、その二つなのだから。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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