乙武洋匡氏 慎重に使いたい「ママさんアスリート」表記

[ 2021年7月26日 06:25 ]

乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(3)】東京オリンピックが開幕して3日がたった。日本のメダルラッシュに列島が大いに盛り上がっている。試合の詳細や選手の素顔を伝えるものなど、じつにバラエティー豊かな記事が配信されているが、あるアスリートを紹介する記事のタイトルを見て、私自身、気をつけなければならないと感じさせられた。それは「ママさんアスリート」という表現だ。

 文字通り、母親として子供を育てながらハードなトレーニングに励む女性アスリートのことを指しているのだが、しかし「パパさんアスリート」という言葉はこれまで聞いたことがない。ここには、どんな違いがあるのか考察してみたい。

 真っ先に思い浮かぶのは、出産による身体の変化だ。女性は出産を経験することで肉体だけでなく体質も変化することがあるし、また一定期間はトレーニングを中断せざるを得ないというハンデがある。そうした困難を乗り越えて、出産前のパフォーマンスを取り戻したり、もしくは出産前よりも高いパフォーマンスを発揮したりすることができれば、これは「ママさんアスリート」として称賛すべきことなのだと思う。

 しかし、実際にこうした肉体や体質の変化といったことに着目した記事がどれほどあるかというと、ほぼ見かけることはない。「ママさんアスリート」と銘打っている記事のほとんどが、出産ではなく育児に言及した内容で、「母親として子育てとトレーニングと両立している」といったストーリーであることがほとんどだ。

 だが、育児との両立がテーマなら、女性だけでなく男性にも当てはまるはずだ。しかし、「パパさんアスリート」という表記を用いて育児との両立に奮闘する男性アスリートを紹介する記事は、これまで目にしたことがない。

 出産という女性にしか経験できないことにクローズアップした記事ならともかく、育児という男女ともに関わる内容に「ママさん」だけを登場させることは控えるべきなのだろう。何と言っても、今大会のビジョンの一つは「多様性と調和」なのだから。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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