伊東四朗の座長公演で堺小春が躍動!

[ 2021年3月23日 16:30 ]

伊東四朗の座長公演で堂々たるコメディエンヌぶりを発揮した堺小春(撮影 引地信彦)
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】新型コロナウイルスの感染がなお収まらず、変異株の脅威も日を追うごとに増長。肝心のワクチンはいつ打ってもらえるのか分からずで…。こんな状況が続いて久しいから、政府からの自粛願いを律儀に遵守してきた国民のいら立ちは募る一方。首都圏1都3県に発令されていた緊急事態宣言は3月21日で解除されたとはいえ、全く安心は出来ない。政府のコロナ対策もあいまいのままで、堪忍袋の緒が切れてしまいそうだ。

 エンターテインメントの世界で生きる人々の疲弊も大きい。演劇や演芸関係者から嘆きの声が聞こえてくるが、そんな中で奮闘している人たちには惜しみない拍手を送りたい。3月12日の昼、東京・下北沢の本多劇場で上演された「伊東四朗生誕?!(?が左、!が右)80+3周年記念 みんながらくた」を観劇してきた。

 キャパの半分だけお客さんを入れての上演。約100分の喜劇だが、途中で15分間の換気タイムを設けるなど万全の態勢。劇場やスタッフの苦労がしのばれたが、どっこい幕が上がれば別世界が広がって、しばしコロナを忘れさせてくれた。

 劇作家・田村孝裕氏(44)の脚本を、演出(出演も)のラサール石井(65)が小気味よくまとめた。リサイクルショップ「がらくたや」の店主・沢崎清太郎(伊東四朗)に、客の千代田淳二(小倉久寛)が小さな仏像を無理やり売りつけたところから話が転がっていく。

 出戻り娘の美沙(戸田恵子)や孫の茜(堺小春)、さらにはギャンブル好きの客(石井)に古物商(伊東孝明)まで絡んで大きな騒動に発展する。

 田村氏が「落語ベースの物語を…と石井さんからオファーいただき」と明かすように、「火焔(かえん)太鼓」や「井戸の茶碗」のエピソードが散りばめられ、落語好きはニヤリとさせられる。

 ちなみに「火焔太鼓」は古道具屋の甚兵衛さんが主人公。商い下手で、いつもしっかり者の女房からお小言を食らっている。きょうも古い太鼓を仕入れてくるが、ここから思わぬ展開に…。一方の「井戸の茶碗」はこんな噺だ。麻布谷町に住むくず屋の清兵衛さんが、千代田卜斎という浪人から200文で仏像を買い受ける。これを細川家の家来、高木佐久左衛門に300文で売るが、洗っているうたちに台座の紙が破れて中から50両が出てきたから大変…。

 甚兵衛さんと清兵衛さんを足して2で割ったような人物像の清太郎。伊東のとぼけた味にじわじわと笑いが込み上げて来て、観ているこちらもいつしか劇中世界の住人になっていた。思い出したのは2007年5月に公開された映画「しゃべれどもしゃべれども」(監督平山秀幸)。落語家の今昔亭小三文に扮した伊東が高座で披露したのが、確か「火焔太鼓」だった。公開から14年が過ぎ、伊東も傘寿を3つ超えたが、相変わらずの達者ぶりが嬉しい。

 戸田恵子、竹内都子、おおたけこういち、長谷川慎也、山城屋理紗と共演陣も充実。中でも堺小春には目を見張った。演出の石井が「今回私のツボは堺正章さんの娘、つまり堺駿二さんの孫である堺小春ちゃんと伊東さんとの共演。その喜劇のDNAの橋渡しにちょっと感動している」とパンフレットに書いた気持ちがよくわかる。

 堺正章(74)と岡田美里(59)の次女。04年、10歳の時にミュージカル「アニー」でデビュー。本名の栗原小春をそのまま名乗った。学業優先のため07年に活動を休止したが、15年に舞台「転校生」で8年ぶりに復帰。この時に「堺の名前を継ぎたい」と主張して改名したという。

 舞台上で彼女はしなやかに躍動していた。伊東や戸田を相手に臆するところもなく伸び伸びと演じ、コメディエンヌとしての才能を感じさせた。いまや堺駿二と聞いてピンと来る人は少ないかもしれないが、250本を超える映画や舞台で多くの人に愛されたコメディアン。68年8月10日に54歳の若さで亡くなっている。「その姓を継ぎたい」という気持ちにはジーンと来た。3月10日に27歳になったが、これからどんな女優さんになっていくか、楽しみな存在だ。

 さて同公演、コロナ禍で地方公演の予定はないと聞くが、WOWOWで5月に放送が決まったそうだ。地方のお客さんも喜ぶに違いない。

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2021年3月23日のニュース