リンゴ・スター 新作「Zoom In」からあふれる現役感

[ 2021年3月23日 10:00 ]

リンゴ・スターの新作EP「Zoom In」のジャケット
Photo By 提供写真

 【牧 元一の孤人焦点】期せずしてリンゴ・スター(80)を見る機会があった。3月15日にWOWOWで生中継されたグラミー賞授賞式だ。

 式の最後に最優秀レコード賞のプレゼンターとして登場。「グラミー賞に来られて光栄だ。まあ、昔やっていたバンドで何度も来たけどね」とザ・ビートルズ時代を振り返ってあいさつした。

 最優秀レコード賞を受賞したのは、ビリー・アイリッシュ(19)。昨年、最優秀アルバム賞など5部門で受賞し、今や米国の音楽業界の中心で活躍する逸材だ。「よかったね」と祝福するリンゴ。「こんにちは、リンゴ」と応じるビリー。伝説のバンドの元メンバーと、伝説を作り始めたミュージシャンの対面が興味深かった。

 リンゴの新作EP「Zoom In」に収録されている「ヒアズ・トゥ・ザ・ナイツ」には、ビリーの兄で音楽プロデューサーのフィニアス(23)が参加している。ビリーの音楽を支えるフィニアスの協力。リンゴの音楽の現代性を感じさせる部分だ。

 この曲は昨年4月から10月にかけてリンゴの自宅スタジオで録音。フィニアスだけではなく、ポール・マッカートニー(78)、ジョー・ウォルシュ(73)、スティーヴ・ルカサー(63)、レニー・クラヴィッツ(56)ら大物ミュージシャンたちが参加している。

 中でも注目はやはりポールのバッキング・ボーカル。最初のサビの部分からハーモニーを聞かせ、力強くシャウトするところもある。ビートルズファンにはたまらない1曲だ。

 EPは計5曲。リンゴの豊かな才能を再認識させられるのが「ウェイティング・フォー・ザ・タイド・トゥ・ターン」だ。リンゴと言えば、カントリーのイメージもあるが、この曲はレゲエ風。うねりを感じさせるドラムが新鮮で、あらためてドラマーとしての実力に気づかされる。

 グラミー賞授賞式で感じ、このEPでも感じたことだが、リンゴは80歳ながら現役感が強い。高齢のミュージシャンにありがちな枯れた雰囲気が全くない。良い意味で軽い。健康に恵まれるとともに、若い精神を保ち続けているのだろう。歌声もまだまだいける。それは、既にジョン・レノンとジョージ・ハリスンを失ってしまった我々ビートルズファンにとって、とても喜ばしいことだ。

 もう一度、見たいものがある。今から7年前、グラミー賞ゆかりのミュージシャンが集まった「ビートルズ・トリビュート・ライブ」の一場面。このライブにはポールとリンゴも出演し、リンゴが一人で「イエロー・サブマリン」などを歌った後、ポールのステージに転換した。

 ポールは「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を歌い終えると、ボーカリストとしてリンゴを呼び込んだ。曲は「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」。1968年にグラミー賞最優秀アルバム賞を受賞した歴史的名盤と同じ曲順だ。リンゴの温かみのある歌声。ビートルズにとって、このドラマーが掛け替えのない存在だったことを痛感した。ピアノを弾きながら「ヘイ・ジュード」を歌うポールの後ろでリンゴがドラムをたたく姿も味わい深かった。

 ポールも相変わらず元気そうだ。コロナ禍が過ぎた後、また二人が一緒に歌う場面を見る機会が訪れることを心から願う。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

続きを表示

2021年3月23日のニュース