「エール」戦後編牽引の北村有起哉「真剣にふざける」ワケ コロナ禍で実感「エンタメは絶対大事」

[ 2020年11月18日 08:15 ]

「エール」北村有起哉インタビュー

連続テレビ小説「エール」第90話。戦争孤児のドラマの企画をNHKに持ち込む劇作家の池田(北村有起哉・中央)。右はラジオドラマのプロデューサー・初田(持田将史)、左は局員の重盛(板垣瑞生)(C)NHK
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 俳優の窪田正孝(32)が主演を務めるNHK連続テレビ小説「エール」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)も最終回(第120話、11月27日)まで残り7話となった。俳優の北村有起哉(46)が戦争で傷ついた主人公・古山裕一を再び音楽の道に導く劇作家・池田を演じ「戦後編」を牽引。そのパワフルな熱演が話題を呼んでいる。根底にあるのは「朝ドラだから」と行儀よくならず「真剣にふざけよう」とアドリブも楽しむ芝居へのアプローチ。撮影の舞台裏や演技論、そして、コロナ禍におけるエンターテインメントへの思いを北村に聞いた。

 朝ドラ通算102作目。男性主演は2014年後期「マッサン」の玉山鉄二(40)以来、約6年ぶり。モデルは全国高等学校野球選手権大会の歌「栄冠は君に輝く」などで知られ、昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而(こせき・ゆうじ)氏(1909―1989)と、妻で歌手としても活躍した金子(きんこ)氏。昭和という激動の時代を舞台に、人々の心に寄り添う曲の数々を生み出した作曲家・古山裕一(窪田)と妻・音(二階堂ふみ)の夫婦愛を描く。

 北村が演じるのは、劇作家・演出家の池田二郎。戦後、戦時歌謡の旗手だった裕一は戦意高揚のための自分の曲が若い人の命を奪ったと自責の念にさいなまれ、曲が作れなくなっていた。しかし、池田は戦争の悲劇からの復活を真っ向から描くラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の音楽は裕一にしか書けないと懇願。裕一は恩師・藤堂先生(森山直太朗)らを亡くした戦争の記憶に苦しみながらも、主題歌「とんがり帽子」を完成。復活を遂げた。

 池田は裕一とタッグを組み、名曲「長崎の鐘」、空前のブームを記録したラジオドラマ「君の名は」、舞台「放浪記」など数々のヒット作を生み出した。

 北村は約1カ月続いた「戦争編」の後、第19週・第91話(10月19日)から本格登場。特に、インパール作戦など“朝ドラの域を超えた”生々しい戦場描写が大きな反響を呼んだ第18週「戦場の歌」(第86話~第90話、10月12~16日)からドラマ全体が一気にギアチェンジ。その一翼となる重責を担った。

 しかも、池田のモデルとなったのは「菊田一夫演劇賞」にも名を残す劇作家・作詞家の菊田一夫氏(1908―1973)。北村は「演劇人にとっては、大変なビッグネーム。生前の頃をご存知の方もいらっしゃるので、実在の人物を演じるのは難しいこともありますが、今回は戦後から登場するキャラクター。逆に開き直って、違う惑星から新しい生命体がやってきて、別の物語が始まるぐらいの感じで取り組んでいった方がいいと直感しました」と演技プランを明かした。

 第93話(10月21日)はラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の誕生が描かれ、1947年(昭22)7月のスタート当初は土日2回放送だった番組が、リクエスト殺到のため、半年後には月~金曜、毎週5回の録音放送に。これが今に続く連続テレビ小説の基となった。CIE(民間情報教育局=GHQの部局の1つ)の15分ドラマの要請に、池田は「短すぎます。英語と日本ではテンポが違う。英語の15分は日本語では25分だ」と反発しながらも「難しいと言われると、燃えるよな」と挑戦。北村は「もし諦めていたら、この『エール』も生まれていなかったのかな?と。そう考えると、凄いつながり、凄い人を演じているんだと実感しました」

 さかのぼって初登場の第90話。池田が「鐘の鳴る丘」の企画を持ち込んだ時のプロデューサー・初田(持田将史)とのやり取りも注目を集めた。

 初田「戦争孤児の話かぁ。今、国民は戦争を忘れたい。ラジオには娯楽を求めている。それにCIEも認めないと思いますよ。(中略)。あなたの文章は素晴らしい。才能もある。そこでまず、あなたの才能を上に知ってもらうためにも、別のドラマやりましょう。ね?その上で、これ考えるって条件で。どうです?」

 池田「ウソじゃないな?」

 初田「NHKですよ。ウソはつきません」

 池田「NHKだもんね。よし!書いてくる」

 「NHKだもんね」の返しは、実は北村のアドリブ。「奇をてらいすぎても、という部分もあるんですが、このシーンで言えば、せっかくNHKのドラマの中で『NHKですよ。ウソはつきません』という面白い台詞があるので、もう少し膨らませてもいいかな、と。その延長線で出た返しだと思います。そういう、ちょっとした余白というか、遊び心は常に楽しみたいと思っているので。シリアスなシーンこそ、意外と面白い“隙間”があったりして、だからシリアスが引き立ったりします。ただ、前日から台本とにらめっこして(アドリブを)絞り出すぞ、ということでもなく、だいたい現場の雰囲気で突発的にひらめくようなこと。単純に、おとなしくしているのが性に合わないだけかも(笑)」と振り返り、演技への向き合い方を語った。

 主演の窪田とは2018年1月のTBS「アンナチュラル」、昨年2~3月の舞台「唐版 風の又三郎」と2度共演。今回も「窪田君と一緒なら」とオファーに即答した。「彼と一緒にお芝居をしていると、どうしても楽しくなってしまって、現場で役から離れて、はしゃぎすぎちゃう瞬間があるのが僕の悪いクセ(笑)。傍から見れば『あの2人、なんで、あんなにイチャついているんだ?』っていうね(笑)。そこはちゃんと律しながら、演じました。池田と裕一、仕事仲間として信頼し合う役が窪田君でよかったと思います」

 朝ドラ出演は17年後期「わろてんか」以来、約3年ぶり2作目。国民的ドラマ枠だが「あまり気負わないようにしています。『朝ドラや大河ドラマだから行儀よく』というのは、逆だと思うんですよね。先ほども申した“隙間”を朝ドラや大河で見つけるのはなかなか大変なんですが、せっかくこういう場を頂いたわけですから、僕も思う存分に楽しみたいという部分はあります。(インタビューを行った)今日も池田が裕一をお見舞いするシーンがあったんですが、ちょっとナースキャップをかぶってリハーサルをやらせていただいたり(笑)。どうしても、かぶりたいんです!と(笑)。もちろん、本番はダメでしたけどね(笑)。そういう雰囲気が好きなんです。僕なんかは途中参加ですが、窪田君たちは1年以上、撮影しているわけですから、なるべく現場の雰囲気も“換気”された方がいいですよね」とムードメーカーも務めた。

 今回は特に、コント番組「サラリーマンNEO」「となりのシムラ」などを手掛けた吉田照幸監督(50)がチーフ演出。コメディー色も強い。「真剣にふざけよう、ということですよね。ちゃんと演じないと、その役が浮いちゃって、不謹慎に見えちゃったりするんです。そうなると、ドラマ全体にとってもマイナス。ただふざけているだけに映ると、視聴者の皆さんに不快感を与えかねないので、実は(アドリブなどで)攻める時こそ、本気で真剣に演じないといけません」

 コロナ禍により、エンターテインメントの世界も打撃を受けた1年。北村は7月、ミヒャエル・エンデ原作の舞台「願いがかなうぐつぐつカクテル」(7月9~26日、東京・新国立劇場小劇場)に出演。感染症対策として本番中もキャストがマウスシールドを着用し、衣装の一部とした演出も話題を呼んだ。

 「7月に早々と舞台に立たせていただいて、その時は言葉にならないくらい胸が熱くなりました。今まで普通だった『舞台に立つ』ということが、こんなに凄いことだったとは、と。今回の朝ドラじゃないですが、こういう時こそ励ます気持ち(エール)、エンターテインメントは絶対に大事なんじゃないかと実感しました。歴史をさかのぼると、芸能に携わる仕事は古い職業だと思うんです。誰かが誰かを笑わせたり楽しませたりして、元気になったり明るくなったりするのは、欠かせないことだから昔から続いているんじゃないでしょうか。どんなにつらいことがあっても『瓦礫から新しい文化が生まれる』と言ったりしますが、今の時代からもまた、新しい皮膚感や距離感の文化が自然と生まれてくると思います。こういう時期に今回、馬力が必要なインパクトのある役を頂けたのも、縁を感じてなりませんね」

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