「再現ドラマの女王」が信じる道 セリフは当日、役作りなし 月収3〜5万円も

[ 2017年12月4日 10:00 ]

 【イマドキの仕事人】女優といえばドラマ、映画で華やかに活躍するイメージが強いが、視聴者からの投稿エピソードや、有名人らの体験を専門にテレビのバラエティーや情報番組で演じる女性がいる。セリフを渡されるのは撮影当日、じっくり時間をかけた役作りは一切なし。より高い対応力が求められる通称「再現女優」。いったいどんな人なのだろうか。

 ◆衣装、メーク道具自前

 都内にあるハウススタジオ。朝の情報番組でオンエアされる「再現ドラマ」の撮影に挑む芳野友美(よしの・ゆみ、37)の姿があった。今回演じるのは夫の行動に閉口する妻の役。1日の撮影で3人を演じ分ける。監督の「3、2、1」のカウントダウンとともに、普段の顔から女優へ。短いながらも、一つ一つのセリフに力を込める。

 同じシーンでカメラの位置を変えて数カット撮る作業は、どんなドラマの撮影現場でも見られるが、本来はあるはずのモニターチェックはない。OKが出れば、すぐさま次のシチュエーションに移る。めまぐるしく変わる現場に、あっけにとられていると「仕事の依頼を受けたのは前の日で、撮影現場が確定したのも、セリフを渡されたのも当日でした。再現の現場はほとんどそんな感じ」と笑った。内心、再現ドラマは、演技を少しでもかじった人間なら誰でもできると思っていたが、どうやらそんなに甘くはなさそうだ。

 ◆10年間で出演350本超

 芳野は高校生の時に芸能界デビューし、一時、アイドルの道へ。女優への夢を持ち続けていたが、芝居の経験が少なくオーディションに落ちまくる日々が続いた。女優をやめるか、続けるか。25歳で人生の決断を下すつもりだったが、引き延ばし続け、すでに27歳になっていた。そんな崖っ縁に立った芳野の元に舞い込んできたのが、再現ドラマの仕事だった。当時は自分でも「B級、安っぽいなど悪いイメージで、絶対に出たくなかった」と思っていたが、仕事を選べる状況ではなかった。

 気が乗らぬまま撮影現場に入ったが、すぐに「自分の考えが間違っていたことを思い知りました」。その場で覚えるセリフ、役に入り込む時間はなし、コロコロと変わる場面展開…さらに、共演者も実力者ばかり。圧倒された。戦場にも似た再現ドラマの撮影現場に、すぐに引き込まれた。

 10年間で出演本数は350本以上になり、今では“再現ドラマの女王”と呼ばれるようになった。目力が強いこともあり依頼の多くが鬼嫁の役。決めゼリフを言う時も、ビンタをする時も「視聴者がスカッとするよう、オーバーにならないよう演じることを心がけています。実は往復ビンタってきれいに見せるには技術がいるんですよ」と話した。

 再現ドラマには俳優・女優の登竜門として出演する場合も少なくないが、テレビ関係者が実力を認めて仕事を依頼する“トップレベル”は数人程度。再現女優として視聴者に「よく見る顔」と思ってもらえるようになるには、200本は出演していないと難しいという。

 ギャラは気になるところだが「“再現”での月収は歩合制で3万〜5万円ほど。仕事のない月もあります」。普段は事務のアルバイトで生計を支えており、その中から衣装を買い、メーク道具をそろえているという。

 生活は厳しいが出演し続けたことで、夢が一つかなった。ファースト写真集「或る女」(双葉社)が15日に発売となる。

 「アイドル時代には果たせなかった、最初で最後の写真集です。伊豆大島で撮影しました」とちゃっかりアピールする。

 もちろん、女優として連続ドラマ、映画に出演したい気持ちはある。「再現で人気を得て、テレビや映画で使われるようになりたい。そのためには、もっと再現ドラマを頑張らないと」。意外な俳優から「自分も実は再現出身」と告白されたこともあるが、公にしていないケースも多いという。再現女優だと笑いたい人は笑えばいい。“女王”のプライドを胸に、芳野は自分が信じる道を歩いていく。

 《情報番組で増加》 再現ドラマを使うバラエティー、情報番組は増加傾向にある。テレビ関係者は「フリップのみを使ったり、アナウンサーの説明だけでは単調になり、視聴者がチャンネルを替えてしまう。俳優が演じる方が目を留めやすい上に、感情移入もしやすい」とメリットを説明した。

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