劇作家・倉持裕氏「鎌塚氏」は転機 難解イメージ払拭「仕事の幅が広がった」

[ 2017年8月8日 12:00 ]

倉持裕氏インタビュー(上)

舞台「鎌塚氏、腹におさめる」の作・演出を務める倉持裕氏
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 2015年後期のNHK連続テレビ小説「あさが来た」の亀助役で知られる俳優の三宅弘城(49)が主演を務める舞台の人気シリーズ第4弾「鎌塚氏、腹におさめる」が東京・下北沢の本多劇場で上演中。場内に笑いを巻き起こしている。脚本・演出は人気劇作家・演出家の倉持裕氏(44)。04年に「ワンマン・ショー」で“演劇界の芥川賞”と呼ばれる第48回岸田國士戯曲賞を受賞。コメディーに定評があり、NHK「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」のコント執筆も手掛けた。舞台異例の4作目となる「鎌塚氏」シリーズは「自分の中で本当にターニングポイントになった作品」。製作の裏側を聞いた。

 三宅演じる完璧なる執事・鎌塚アカシが“騒動”に巻き込まれるコメディー。11年5月に第1弾「鎌塚氏、放り投げる」、12年8月に第2弾「鎌塚氏、すくい上げる」、14年7月に第3弾「鎌塚氏、振り下ろす」を上演。第1弾と第3弾はともさかりえ(37)、第2弾は満島ひかり(31)をヒロインに迎え、3年ぶりの第4弾は二階堂ふみ(22)が初参戦。推理小説にのめり込む名家の令嬢・綿小路チタルを演じる。アカシとチタルが屋敷で発生した殺人事件の解決に乗り出す。共演は眞島秀和(40)お笑いトリオ「我が家」の谷田部俊(39)玉置孝匡(45)猫背椿(44)大堀こういち(54)。

 近年、舞台作品のシリーズ4作目が製作されるのは異例。倉持氏は「うれしいですね。作品のファンを獲得できたのは、本当にありがたいことだと思います。シリーズの新作を楽しみにしてくださるお客さんがいることは、すごく幸せです」と素直に喜んだ。

 日系英国人のベストセラー作家カズオ・イシグロ氏(62)の傑作小説「日の名残り」に着想。執事スティーブンスと女中頭ミス・ケントンの淡いロマンスも描かれるが「スティーブンスはミス・ケントンへの思いを隠し、丁寧な言葉で理性的に話す。それは、僕には喜劇でしかなかったんですよね」とコメディー要素を見いだした。

 執事の生真面目な性格を使った喜劇を構想していた一方、三宅とタッグを組むことになり「三宅さんと一緒に芝居を作るなら、何がいいか。生真面目、四角四面なのに、ところどころ抜けている、その両方を三宅さんは持っていると思いました。見た目も四角いですし(笑い)。もちろん、三宅さんは『ナイロン100℃』(ナンセンスコメディーを得意とする人気劇団)にいるわけですし、コメディーへの信頼もありました」と「鎌塚氏」が生まれた。

 過去3作品は廻り舞台を用いたスピーディーな展開が持ち味。20シーン近く転換し、1場面は5〜10分。今回は廻り舞台を使わず、1シーン30分になることも。「少しマンネリになるというのはありました。何かを変えないと、新作を作るテンションになりにくい」。さらに推理もの。「何シーンも転換し、主人公がいろいろな場所に足を運んで情報を集めて、謎解き…という仕上がりが、自分の中で読めちゃったんです」

 舞台装置以外も、脚本は「第3作までは、とにかく意地でも笑わせなきゃという義務感があって、プレッシャーもありました。4本目になると、もちろん、お客さんは笑いを求めていらっしゃるでしょうが、鎌塚アカシというキャラクターに会いたいという人も大勢いると思うんです。となると、無理に笑いを入れないで、もう少しアカシという人間、アカシに接する人間たちの描写に、もっと力を注ぎたいと思いました」。新しい一面が楽しめそうだ。

 倉持氏にとって「鎌塚氏」シリーズは「自分の中では、代表作だと思っています。舞台の代表作は?と聞かれたら、そう答えると思います」と自負。「自分の中で本当にターニングポイントになった作品だと思っていて、ここから頂く仕事の幅が本当に広がりました」。04年に“演劇界の芥川賞”と呼ばれる第48回岸田國士戯曲賞に輝いた「ワンマン・ショー」は不条理劇。以来「コメディーや大衆的なものはやらないと思われていたんでしょうね。『ワンマン・ショー』の上演は03年で、『鎌塚氏』のパート1は11年。随分、時間も経っていたので、そういうイメージも、もう薄れているかなと思っていたんですが」。「鎌塚氏」第1弾の後に「(「鎌塚氏」を見て)倉持さんと分かり合えると思いました」と各方面からオファー。NHK「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」も12年から。難解な作風のイメージの「誤解が解けたみたいな感じですかね」と笑った。

 シリーズの今後については「とりあえず『オリエント急行殺人事件』みたいに、列車を舞台にしたものはやりたいと思っています。あとは、もっと執事が大勢出てくるものも、いつかやりたいですね。鎌塚アカシは本来、何十人も使用人がいる執事長ですが、毎回、登場するのは数人。これじゃ、執事長がどんなに偉いのか、分からないですからね(笑い)」と構想。「『鎌塚氏』はキャラクターがしっかりしているので、あとは変わったシチュエーションに放り込めばいい。いくらでも、できるんですよ。(設定を)考えるのも、楽しいです」。早くも第5弾が待ち遠しい。

 ◆「鎌塚氏、腹におさめる」公演日程【東京公演】8月5日(土)〜27日(日)=本多劇場【名古屋公演】8月29日(火)〜30日(水)=日本特殊陶業市民会館ビレッジホール【大阪公演】9月2日(土)〜3日(日)=サンケイホールブリーゼ【島根公演】9月5日(火)=島根県民会館大ホール【広島公演】9月7日(木)=JMSアステールプラザ大ホール【宮城公演】9月13日(水)=電力ホール【富山公演】9月15日(金)=富山県民会館ホール【静岡公演】9月18日(月・祝)=静岡市清水文化会館マリナート大ホール

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