NHK“新しい時代劇”に挑戦!“土6”「悦ちゃん」若年層狙う仕掛け奏功
NHKが“新しい時代劇”に挑戦している。今春から土曜午後6時枠の名称を「土曜時代劇」から「土曜時代ドラマ」に変更。ターゲットを若年層にも拡大した。7月15日にスタートした第2弾「悦ちゃん 昭和駄目パパ恋物語」(土曜後6・05)も、その仕掛けが満載。SNS上で反響を呼んでいる。家冨未央プロデューサーに企画意図などを聞いた。
「悦ちゃん」は、戦前から戦後にベストセラーを連発した昭和の流行作家・獅子文六の同名小説が原作。昭和10年の東京・銀座を舞台に、大衆歌の作詞家・柳碌太郎の恋模様を描く。妻を亡くし、荒れた生活を送っていた碌太郎のため、一人娘の悦子(平尾菜々花)が新しいお嫁さん探しに乗りだす。
“土6”リニューアル第1弾は、高田郁氏の同名人気時代小説をドラマ化し、黒木華(27)が主演を務めた「みをつくし料理帖」(5月13日〜7月8日)。本編のクオリティーの高さはもちろん、エンドロールのミニ料理コーナー「澪の献立帖」も好評を博した。2作目の今回は、ラブコメディー。第3弾の「アシガール」(9月23日スタート)は、森本梢子氏の人気コミックを原作にした戦国時代へのタイムスリップもの。従来の時代劇とは明らかに一線を画すラインアップになっている。
狙いは、シニア層の視聴者が多い時代劇の間口を広げること。描かれる時代も明治、大正、昭和(戦前)を含める方針が掲げられた。
制作統括の落合将チーフプロデューサーとタッグを組んだ家冨氏は、現代に近い時代で一癖ある中年男が主人公のドラマを作りたいと考えていたところ、昨年秋に偶然、書店で原作に出会った。ちくま文庫が近年、獅子文六の復刊を展開。おかっぱ頭の女の子(悦ちゃん)のイラストや手書きの帯など、カラフルな装丁が目に飛び込んだ。読むと「ダメなところも含めて愛らしい中年男の恋物語が明るくポップに描かれていて、パパやママなど80年前に書かれたとは思えないモダンな言葉の嵐。新鮮でした」。その軽妙さも、リニューアル枠の目指すタッチに合致した。過去に映画化やテレビドラマ化もされていたが、21世紀版として大胆にアレンジし、昭和モダニズムあふれるおしゃれなドラマとして描くことが決まった。
主演にユースケ・サンタマリア(46)を起用。「中年男の恋に、嫌悪感を抱かれない人」がポイントになる中、家冨氏は「46歳になっても色気がある」と太鼓判。フジテレビ「アルジャーノンに花束を」(2002年)など、ユースケの主演作が相次いだ2000年代前半に青春時代を過ごした家冨氏にとっては、ヒーロー的存在。「明るいキャラクターでかっ飛ばすユースケさんのドラマが久しくなかったので、もう一度“ド真ん中”(主演)で見たいと思いました」とオファー。ポップな作風との相性は元来よく、今回の“新しい時代劇”にマッチした。
映像面も新しさを出した。獅子文六は大学を中退した後、演劇を志して渡仏。最初の妻はフランス人だった。「国際感覚豊かな人だったので、昭和の話ですが、“洋”のにおいを出したい。パッと見た時の画面の世界観をフラン映画『アメリ』(01年)みたいな感じにしたいと、美術さんにオーダーしました。演出も、すべてをリアルに描くんじゃなく、そこにカラフルなおもちゃ箱があるような“箱庭感”を出して、ポップに仕上がるといい。それがNHKにチャンネルを変えた時の“引き”になるんじゃないかと」。衣装の色味も鮮やかで、音楽もジャズやシャンソンをイメージした。
結果、第1話の放送を終え、インターネット上には2種類の反応があった。家冨氏は「『小さい頃に、こういう感じのドラマがあった。懐かしい』という世代と、ただ単に『このドラマ、何か超かわいい』という若い層。若い人たちには新しさに引っ掛かっていただいて、後から『恋をするのが大変な時代もあったんだ』と感じていただければいい。2層の分離した反応があればいいと思っていたので、そこは狙い通りにいったと思います」と手応えを示した。
SNS展開も重視している。ミュージカル調が話題の主題歌「パパママソング」は歌詞付き動画を公式サイトに掲載。動画サイト「NHK1・5チャンネル」においては、ヒロインの恋敵・日下部カオル役を演じる石田ニコル(27)がファッションショーを繰り広げている。
「ホームページ、ブログ、ツイッターの更新頻度を上げて、視聴者の皆さんの“知りたい欲求”にきめ細かく応えたいとトライしています」。家冨氏は、SNS上で盛り上がった昨年の大河ドラマ「真田丸」のプロデューサーとしてキャスティングを担当。「真田丸」の影響?と聞くと「それは大きいですね。ネットの皆さんはドラマのお楽しみポイントを一緒に発掘してくれるので、『時代ドラマだから』『シニア層が大部分だから』とSNSをないがしろにするのはいけないと思いました」。今月21日午後7時からは東京・渋谷の東京カルチャーカルチャーでトークイベントを開催。さまざまな方向から“新しい時代劇”の定着を図る。
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