「機材ドーピング」の時代になってしまった自転車ロードレース

[ 2016年7月13日 09:09 ]

 映画「疑惑のチャンピオン」を見た。チケット売り場では思わず「伝説の…」と言いかけてシドロモドロ。クイーンの名曲と間違えてはいけません。

 内容はもちろんフレディー・マーキュリーの物語ではなく(しつこいか)ランス・アームストロングの転落人生を描いたもの。自転車ロードレースの最高峰、ツール・ド・フランスで7年連続優勝の偉業を達成しながら、その全てがドーピング違反だったという残念な人物の、残念なお話。

 映画はドキュメンタリー風に淡々と進む。驚いたのはランスを演じるベン・フォスターの激似ぶり(特におでこのあたり)。彼の同僚で、やはりドーピングに手を染めるフロイド・ランディス役のジェシー・プレモンスもしかり。実在の人物が本人としてカメオ出演しているかのようだ。その一方で、ほんの2カットしか登場していないアルベルト・コンタドールは、あんまり似ていない。

 いずれにせよ、ロードレースの選手がドーピングに頼る心境が手に取るように描かれている。特にグランツールでは山岳ステージの成績が総合順位を左右するから、ヒルクライムに劇的な効果を及ぼす運動機能向上薬は、登坂が苦手だったランスにとって、まさに禁断の果実だった。一度摂取して好成績を挙げたら、もう手放せない。検査の対象になっても陽性反応が出ないよう、またはもみ消すため、あの手この手の狡猾(こうかつ)な手段を採る。疑惑の声が上がっても、平気な顔をして否定を続ける底知れない精神力まで求められる。

 この「疑惑に対しあくまでしらを切るメンタルの強さ」は、ランスの場合桁違いに強烈だった。人間、嘘をつき続けても、どこかで良心の呵責(かしゃく)に悩まされ、徐々に崩れ落ちていくもの(フロイドのように)。その人間味が表れるのは映画の後半以降、さらに終盤まで待たなければならない。

 映画でそれとなく暗示されているのが、ランスに限らずロードレース界全体が薬禍に見舞われているという疑念だ。これまでも数多くの有名選手がドーピング陽性反応を示して出場停止処分を受けている。そんな状況に嫌気をさしてチーム支援から撤退したスポンサーは後を絶たない。なによりもファンの心が遠ざかっていくのが競技として痛い。映画を見たみなさん、さあどう思いますか?というスティーブン・フリアーズ監督の問題提起なのだろう。日本公開がツール・ド・フランス開幕日と同じなのも確信犯的だ。

 実は自転車界、今年に入ってある意味ドーピングを超える大スキャンダルに見舞われている。1月下旬に行われたシクロクロスの世界選手権でベルギー女子選手のバイクから隠しモーターが発見されたというびっくりニュース。

 当該選手は「友人のバイクを借りただけ」などと、前都知事並みの苦しい弁明を繰り返したが、結局失格となり、なんと6年の資格停止処分を受けた。この隠しモーターは以前から現場で噂されていたというので、他の選手も使っている可能性は否定できない。事実、現在開催中のツール・ド・フランスでは、走行中のバイクを対象にサーモグラフィー検査を科しているという。

 薬物ドーピングならぬ「機材ドーピング」。なんともはや、の時代になってしまった。

 もしランスの時代にこの違法技術があったら、彼は手を出しただろうか?映画を見た後の笑えない妄想がこれだ。

 ご本人には申し訳ないけど、絶対、何が何でも、迷わず使っただろうなあ。(我満 晴朗)

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2016年7月13日のニュース