木村祐一 107組の芸人の背中に感じた「ほんまの姿」

[ 2016年2月27日 09:30 ]

ワレワレハワラワレタイのインタビュアーを務めた木村祐一

 吉本興業東京本部の玄関にはベテランから若手まで芸人100人以上が集まった集合写真がある。同社が創業100年を迎えたことを記念し、2012年4月8日に大阪・なんばグランド花月で行われたイベント「伝説の一日」の打ち上げでの一枚だ。桂文枝に明石家さんま、ダウンタウン、間寛平らが、満面の笑みで文枝のギャグ「いらっしゃ~い」をしている。この興行には208組227人の芸人が登場、全国各地でのライブビューイングも含め12万人を動員し、100年の歴史を感じさせるものだった。

 その1枚の写真がきっかけとなり始まった企画に吉本興業のドキュメンタリープロジェクトがある。笑福亭仁鶴や西川きよし、明石家さんま、ナインティナイン、雨上がり決死隊ら107組にピン芸人の木村祐一がインタビューした作品で、13年2月から15年9月までの2年7カ月かけて130時間以上にわたり撮影した。そのドキュメンタリー「ワレワレハワラワレタイ ウケたら、うれしい。それだけや」の第1弾10作品を現在、東京・イオンシネマ板橋で上映中している。木村がインタビュアーを務めることで、芸人としての不安や喜びなど普段は聞くことのできない本音を引き出している。

 「100周年のあの写真を見るにつれ、なんか心情的な部分を残したいなというのがあった。みんな、ウケたらうれしいですよね。そこの個人差を表現できるものは何があるかな、と考えた。腹が立つことがあっても、嬉しいことがあるから続けられる。怒りを起源とした笑いもある。西川のりおさんは人と同じことはオモロないし、不満だらけ。あれは怒りですよね(笑い)。ほかにもあの先輩の一言に助けられたとか。歴史も増えて行く訳ですから、これからも続けたい」(木村)

 西川のりおは、若手芸人がライバルと仲良くする考えが分からないとぼやき、漫才コンテストの在り方や、工夫のない若手の“薄っぺらいツッコミ”に苦言を呈する。相方の上方よしおは、故横山やすしさんに「君は一つのボケに10個のツッコミを持ってるか?」とアドバイスされた時のことを振り返る。その上方よしおや中田ボタンのツッコミをダウンタウンの浜田雅功が若手の頃に研究して今につながっているのも歴史である。

 雨上がり決死隊の宮迫博之は、バラエティー番組の最中にエピソードトークを忘れた時のことを話す。緊張からなのか「頭の中が真っ白になって、ほんまにやばいと思いました…」。嫌な汗を背中にびっしょりかいていることはテレビ画面からは伝わらない。そこをギリギリで渡り歩く。そんな等身大の芸人の姿も垣間見える。

 「インタビューの最後に生まれ変わっても芸人やりますかという質問をしてるんです。半分以上はやりたいという答え。理由はさまざま。やりたいって言う人は“同じ相方で”と答えた人が多い。きよし師匠は“芸人はよろしいで”って言うてました。107組の最後はボクだったんですけど、いろいろ考えた。それで、このインタビューができるなら、またやりたいって言いました。ぼくは芸人の背中が好き。ほんまの姿ちゃうかな、と思いますね」(木村)

 芸人の世界は仕事の保証はまったくなく、不安はついて回る。世間で認知され、食べていけるのもひと握りである。そんな商売だが、一度、劇場で笑い声に包まれると止められなくなる。笑わせたい、笑いたい、笑ってもらう…すべてを含めて題名の「ワレワレハワラワレタイ」につながる。 「芸人は職業ではなく、精神とか概念やと思うんですよ」と木村はいう。西川のりおは「この世界に入ったのは女にモテたいからちゃうねん。俺らは笑わせたいから入った。お客さんにオモロイなあと言ってもらったのが嬉しかった。面白いと言われたいねん」と締めくくった。シンプルなインタビューに出て来る言葉には、それぞれ深みがある。普段の劇場やテレビで見るのとはまた違う“芸人という生き方”に触れることができる作品である。(記者コラム)

続きを表示

この記事のフォト

2016年2月27日のニュース