[ 2010年10月16日 06:00 ]

それぞれの持ち味を生かして巧みに人物像を描き出したカウネ(右)とヨハネス・マイヤー

 「アラベッラ」のもうひとつの、いえ最大の魅力はリヒャルト・シュトラウスによる極上の音楽です。ウルフ・シルマーは東京フィルハーモニー交響楽団から多彩なハーモニーを引き出して、円熟期の鮮やかで奥行きのあるシュトラウスの響きでホールを包み込んでくれました。シルマーの演奏を聴くのは今春開催された「東京・春・音楽祭」におけるNHK交響楽団を指揮しての舞台神聖祝典劇「パルジファル」(ワーグナー、全3幕、演奏会形式)以来でしたが、彼はきびきびとした音楽運びと厚い響きを作り上げることができる指揮者だと感じました。この日も時にシュトラウス独特の芳醇な響きで劇場を満たし、オーケストラの緊張を途切れさせることなくビシッと統率していました。

歌手の中でとりわけ存在感があったのはミヒャエラ・カウネです。アラベッラの気品とたっぷりとした自信を漂わせ、高音も低音も安定し声量も群を抜いて光っていました。バイロイト音楽祭の常連歌手の面目躍如といったところでしょうか。相手役マンドリカのトーマス・ヨハネス・マイヤーはさながら“プチ・オックス男爵”とでもいうべき、ハマり役だと感じました。田舎育ちの粗野な雰囲気が滲みでるような出で立ちは、演技なのかどうかの区別がつかないほど。

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2010年10月16日のニュース