24時間マラソンプロデューサーが明かす「残り1・19キロ」

[ 2009年9月19日 08:15 ]

「24時間テレビ」チャリティーマラソンのプロデューサー、中村博行氏

 今年の「24時間テレビ」チャリティーマラソン(日本テレビ)でこれまでの女性ランナーで最長距離となる126・585キロを見事に完走したのがお笑いタレントのイモトアヤコ(24)。だが、その道のりは決して楽なものではなかった。無念の中継終了、番組史上初のゴールシーン生中継なし、ケガとの戦い、豪雨、なかなか上がらなかったペース…。感動のゴールの裏でイモトとスタッフは何を思い、何を得たのだろうか。イモトの伴走者を務めた中村博行プロデューサー(39)へのインタビューから激走を振り返る。(全3回)

 8月30日午後8時57分。ゴールまで残りわずか1・19キロの地点で中継車のスピーカーから聞こえてくる「サライ」が止んだ。テレビの生中継終了の合図だった。

 スタートから125キロあまりを走り、ゴールの東京ビッグサイトを目指し走っていたイモトは信号が青に変わるのを待っていた。時計に目をやると、一瞬倒れかかった。スタッフに支えられ、なんとか姿勢を保つと、真っ直ぐに伸ばした左腕を口にグッと押し当てた。約20秒の沈黙。時間のことを考える余裕がないほどに疲れきっていたのだが、本能的に放送終了を理解したのは間違いなかった。

 スタッフの視線はおのずとイモトに集まった。「“皆まで言うな”という雰囲気だった」と中村プロデューサー。時間内にゴールできなかったことがどういうことか、イモト本人が一番わかっていた。だから周囲がそれ以上何かをいう必要はなかった。

 「僕らは中継が終わったあとも、ゴールしたあとも“間に合わなかった”という言葉を口に出さなかった。この言葉を言うことによって、体も気持ちも切れてしまうと思ったから。振り返ってみると、スタートしてから最後まで本当に“間に合わない”という言葉を一度も言わなかった」

 スタッフ全員の思いは一つ。「イモトを完走させる」。誰もが速く駆け抜けるより、ただひたすら視線はゴールすることだけを目指していた。信号が青に変わると、何にもなかったように“よし行こう!”と声をかけ、再び走り出した。

 しかし、言葉にこそ出さなかったものの、中村プロデューサーは強烈な自責の念にかられていた。
 「イモトがこんだけ頑張ったから、ゴールシーンを生でみなさんに見せたかったし、彼女の意地としても時間内にゴールさせたかったな。悔しさだけでしたね。本当に無念だった。一番無念だな…。(2003年の走者)山田花子ちゃんとかは完全に時間に遅れたけど、日本テレビの人がたくさん尽力してくれて放送できたり、いろいろあったけど。12年間マラソンやってきて、自分の読みでこれなら時間内に入れられると思ってガチで負けた。彼女に申し訳なかったな」

 完走を信じて中継終了後も会場周辺で待っていた大勢の人たちに迎えられたイモト。自身のブログで後日、「最後は嬉しさと悔しさが混じり、目の前が涙でいっぱいでした」と心境をつづった。ビッグサイトの敷地内に入ったときのイモトはどうだったのか。

 「それはうれしさのほうが勝ってたと思う。こんなに人が待ってくれてるんだと。ビッグサイトへ入って階段を上がっていくと、ちょっと高台がある。ふと横と後ろを振り返ると、自分が通った列と自分を待ってくれている列がわぁ~っと見えるんですね。そこで、立ち止まりましたね。イモト、イモト、見てって。結構いい景色で。だから、こんなにたくさんの人が待っててくれるんだと思ったと思う。うれしさのほうが強かったでしょう。悔しさは間に合わなかったと思った瞬間と、ゴールし終えたあとのほうが強かったんじゃないかな」

 重力が普段の何十倍にも感じられように重い足どりで、長い階段を上り終えると、この先は1人で行くことを示唆するように赤いじゅうたんが敷かれていた。伴走者はここでイモトを見送った。中村プロデューサーの心中には、このとき見せた笑顔とは裏腹に無念の思いがこみ上げていた。

 「時間内に(ゴールに)入れられなくて、申し訳なくて、申し訳なくて、申し訳なくて仕方なかった。う~ん。でも、まあ一応、安全に来られたっていうことがあるのかな。これまではペースを作ってきたけど、これから先は子供を見送るような気持ちでしたよ。スタッフとしてやり遂げた感じはあったのかな…。でも正直にいうと、悔しかったのと無念だった気持ちのほうが強かった。自分で自覚しているのはそれだけですね」

 ゴール後、インタビューを終えて控え室に戻ったイモトはアイシングなどの処理を施して、激走の疲れを癒やした。体はボロボロだったものの、表情は充実感に満ちていた。

 「100%充実感でした。疲労感はなかった感じでしたよ。伴走者何人かで控え室へ行ったときに“ありがとうございました”と言ってくれました。心から感謝してくれてるんだなと思いました。逆に、よく頑張ったねと声を掛けましたね」(つづく)

 ▼中村博行(なかむら・ひろゆき) 1970年9月13日生まれ。福井県出身。京都大学卒。93年日本テレビ入社。番組制作部門に配属。「知ってるつもり?!」「とんねるずの生だら!!」などのレギュラー番組に携わる一方、特番として97年から「24時間テレビ」チャリティーマラソン制作スタッフを務めている。著書に「準備は3日間だけ!練習ゼロで完走できる非常識フルマラソン術」(光文社)。

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2009年9月19日のニュース