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井上尚弥世界戦17連勝 なぜ村田&井岡戦は延期し、モンスターの一戦はできたのか…大橋会長の苦悩と決断

[ 2021年12月14日 21:15 ]

<WBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチ 井上尚弥 vs アラン・ディパエン>カメラマンの注文に答え2本のベルトをかざす井上尚弥(撮影・長久保 豊)
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 プロボクシングWBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦は14日、東京・両国国技館で行われ、統一王者・井上尚弥(28=大橋)がWBA10位、IBF5位のアラン・ディパエン(30=タイ)を8回TKOで下し、19年11月以来となった国内リングでWBA6度目、IBF4度目の防衛に成功し、世界戦17連勝とした。

 井上尚弥にとって2年ぶりの国内防衛戦は所属する大橋ジムの大橋秀行会長(56)にとっても2年ぶりに主催する世界戦だった。コロナ禍でのイベント開催は大きなリスクを伴い、実現までは苦労の連続だったが、ギリギリの決断で中止を免れ、開催にこぎ着けた。

 試合本番を翌日に控えた13日、横浜市内のホテルで前日計量、公式会見を見届けた大橋会長は多くの報道陣に囲まれていた。そこに出場選手が受けた抗原検査の結果が届いた。「全員陰性」の知らせに会長は大きく息を吐き出すと、「プロモーターとしては今回の試合が一番思い出に残るかもね。これで試合が成立するからオレの役目も終わり」と笑った。

 コロナ禍で海外選手を日本に招いての世界戦は中谷潤人(23=M・T)が新王者となった昨年11月のWBO世界フライ級王座決定戦、井岡一翔(32=志成)がV3に成功した今年9月のWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチに続いて今回が3例目。スポーツ庁や会場所在地の自治体、JBCなど関係各所との調整を続け、ようやく開催を正式発表できたのは10月29日のことだった。

 それから1カ月後の11月29日、政府が新たな変異株「オミクロン株」の海外での流行を受け、外国人の新規入国を禁止する方針を打ち出すという驚きのニュースが飛び込んできた。「鳥肌が立ったよ。ゾッとした。あと1日遅かったらアウトだったからね」。年末に予定されていたWBA世界ミドル級スーパー王者・村田諒太(帝拳)とIBF王者ゲンナジー・ゴロフキン(39=カザフスタン)の王座統一戦、井岡とIBF王者ジェルウィン・アンカハス(29=フィリピン)の2大ビッグマッチは延期、中止を余儀なくされたが、井上の対戦相手アラン・ディパエン(32=タイ)、谷口の相手ウィルフレド・メンデス(25=プエルトリコ)ともに入国済みで、間一髪のところで難を逃れた。

 実は11月上旬に隔離期間が14日から10日間に短縮された際、大橋会長は対戦相手の来日を遅らせることを検討していた。だが、すでにホテル予約や送迎業者など手配済みだったため、考え直したという。「自分でもファインプレーだったと思う。周りからは“持ってる”と言われるけど、怖いぐらいだよ」。1990年に国内ジム所属選手の世界戦での連敗を21で止め、WBC世界ミニマム級王座を獲得した大橋会長の直感と決断によって危機を回避することができた。

 来日後のディパエンには毎朝、抗原検査を受けることを依頼し、結果を報告してもらっていた。「朝、LINEが来るたびにドキッとしていたよ」。無事に興業を終え、ようやく苦悩の日々から解放された。

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