【内田雅也の追球】試合開始時間に合わせたフライ捕球練習 常に最悪を想定する岡田監督の姿勢が見えた

[ 2023年10月18日 08:00 ]

1985年4月16日、阪神ー巨人戦で阪神・佐野の遊飛を巨人・河埜(左)が落球する(右はクロマティ)
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 阪神の練習仕上げのシートノックが始まったのは午後6時だった。きょう18日からのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ(S)の試合開始時間に合わせた。

 最初に行ったのはフライ捕球だった。コーチの筒井壮、馬場敏史2人が内野、内外野の中間、邪飛……計23本を打ち上げた。楽々と捕球していたが、1本は二塁後方のフライが外野手との連係不足で芝生の上に落ちた。やはりミスは出る。

 夜間のフライノックを指示したのは監督・岡田彰布だった。何しろ甲子園でのナイターは9月27日以来、3週間ぶり。打者はみやざきフェニックス・リーグで実戦の打席に立ったが、守備での「目慣らし」も必要である。

 「最善の準備を行うという監督の方針」とヘッドコーチ・平田勝男は言った。当初は午後1時予定だった前日練習をナイターになる4時半開始に変更したのも岡田で「フライを多めに上げておけよ」と命じていた。

 思い出したのは日本一となる1985(昭和60)年4月16日、同年最初の巨人戦(甲子園)だ。伝説のバックスクリーン3連発の前夜である。

 0―2の4回裏2死一塁、遊撃後方のフライを河埜和正がグラブに当て落球。岡田が長駆生還した。この回一挙7点を奪って逆転勝利している。

 岡田は「あれは前の日に巨人が練習できなかったからな」と話す。凡飛疾走の殊勲より、まさかのミスを語るのは、マイナス思考、最悪を想定する岡田らしい。

 実は前日15日は雨が降り、甲子園室内での練習になった。巨人はこの年、ぶっつけ本番で初ナイターに臨んでいた。

 ノックを見守った岡田は平田に「薄暮でもなかったな」と話した。ひと安心である。フライボールはたそがれ時と呼ばれる日没前後の薄暮の時間帯が見えづらい。知らぬ間に秋は深まり、この日の西宮市の日没は5時22分。6時には日が暮れ、ぼんやり浮かんでいた三日月が光っていた。

 阿久悠の詩に『甲子園の雀(スズメ)』がある。低迷期の91年7月、本紙に連載した『真情あふれるタイガース改造論』の最終回にある。<甲子園の雀が顔を寄せて/春と夏のまつりを語る/秋にもまつりがあればいいと/毎年毎年思いながら>。春夏の祭は高校野球の甲子園大会。秋は日本シリーズに他ならない。さあ、祭に向けて再始動である。 =敬称略=
 (編集委員)

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