【内田雅也の追球】守備も投球も「一瞬」が明暗を分けた

[ 2022年5月12日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2-3広島 ( 2022年5月11日    甲子園 )

<神・広>6回無死一塁、坂倉の打球をさばくも送球にもたつき、併殺を逃す糸原(撮影・北條 貴史)
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 阪神の敗因は再三の好機をつぶした打線にある。依然として投手陣は踏ん張り、これで4月22日から16試合連続で3失点以下に抑えている。それでも勝てない原因は好機に弱い打線にある。

 ただ、この夜逆転を許した時には勝敗を分ける細かな綾があった。そこを書いてみたい。

 試合中、何となく嫌な予感がする時がある。たとえば、併殺コースのゴロが飛びながら、取り逃がした時だ。いわゆる併殺崩れである。

 阪神6回表の守りである。2―1と1点リードの無死一塁。左腕・渡辺雄大が坂倉将吾を二ゴロに打ち取った。強い当たりで、やや一、二塁間寄りで左打者とはいえ、併殺かと思われた。

 ところが処理した二塁手・糸原健斗がジャッグルし二塁送球が遅れた。一塁転送も間に合わなかった。手もとのストップウオッチでインパクトから計ると、4秒71かかっていた。併殺を奪うには0・2秒は遅い。

 1死一塁が残り、直後に小園海斗に三塁打を浴び、末包昇大に犠飛を上げられた。嫌な予感が的中したわけだ。

 敗戦投手になったとはいえ、渡辺は責められない。育成契約からはい上がり、今季過去11試合無失点と好投していた。健闘をたたえたうえで、その悔しさを思いやる。

 小園に浴びた右中間への同点三塁打は失投だった。0ボール―2ストライクと追い込み、捕手・坂本誠志郎のサインに首を振って投げたスライダーだった。ミットは外角ボールゾーンに構えていたが、ほぼ真ん中に入って痛打された。

 この1球を渡辺は右足をすり足にするクイックモーションで投げた。小園への3球の投球タイムは順に1秒32、1秒39、そして1秒19。0・2秒ほど速かったが、追い込まれていた小園にコンパクトに対応された。

 速いモーションから遅い変化球でタイミングが間に合ったのかもしれない。クイックから速球系なら、失投でも差し込んでいたかもしれない。

 「一瞬」とは時間にして0・2秒ほどだという。守備も投球も一瞬が明暗を分けたのだ。こんな綾こそ野球の醍醐味(だいごみ)なのだが、負けてばかりの最下位独走では「この1球」を論じている場合ではなくなってくる。=敬称略=(編集委員)

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2022年5月12日のニュース