【内田雅也の追球】積極的待球の四球。近本の出塁にかけた強い意志

[ 2022年4月23日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6ー0ヤクルト ( 2022年4月22日    神宮 )

<ヤ・神>7回無死、四球を選ぶ近本(撮影・平嶋 理子)
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 阪神が欲しかった追加点を呼んだのは近本光司の四球である。

 「スミ2」のまま両軍0行進が続いていた7回表、先頭打者として出塁した。直後、熊谷敬宥が初球で送りバントを決め、佐藤輝明の二塁打で還した。あの攻撃は近本の姿勢がナインを刺激したからではなかったか。

 四球には出塁にかけた強い意志がみてとれた。来日初登板の新外国人A・J・コールは代わり端で制球が乱れていた。カウント3ボール―1ストライクの後、近本はセーフティーバントのしぐさを見せた。恐らく、ベンチからの「待て」ではなく、自ら待球、投手を陽動したのだろう。四球を奪いにいったと言える。

 近本は直近5試合で17打数1安打(打率・059)と打撃不振にあえいでいる。

 通算2097安打、首位打者も獲った元ヤクルト監督・古田敦也が不調時は「打席に入ってもフォアボールしか狙いません」と語っている。著書『「優柔決断」のすすめ』(PHP新書)にある脳科学者・茂木健一郎との対談だ。「不調のときは、たいていボール球に手を出してしまう。不思議なもので、調子が悪いときに限って打ちたくてしょうがないんですよ」

 別の著書『うまくいかないときの心理術』(PHP新書)では<打ちたい気持ちを我慢して時を待つ>とある。スランプが去るのを待つために、打たずに待つのである。

 もともと近本は打って出るタイプだ。最多安打賞を獲った昨季も四球は33と少なかった。ただ、昨季のカウント別成績をみると、3―1で・308、3―2で・313。3―1から待っても打率はむしろ上がっていた。

 四球が増えれば出塁率も打率も上がるが、持ち前の積極性を失っては元も子もない。言葉は難しいが、積極的な待球であったとみたい。

 今季の四球は早くも12個目となり、リーグ4位タイだ。昨季から比べると2倍以上のペースである。この夜の出塁、そして生還(今季8得点目)で、スランプの暗闇から抜け出る予感がする。

 選手会長でもあり、チームの不振に相当心を痛めていたことだろう。前夜、雨中の敗戦後、ベンチからグラウンドに一礼する姿に反骨の闘志が映っていた。=敬称略=(編集委員)

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2022年4月23日のニュース