【内田雅也の追球】人前でほめるか、人前で叱るか 正しい答えのない問い

[ 2022年2月17日 08:00 ]

ミスや失敗が相次いだケース打撃
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 送りバントがなかなか決まらない。3本連続ファウルの三振や封殺、併殺もあった。ヒットエンドランの凡飛、バスターエンドランの空振りもあった。ともに走者は憤死した。三塁走者がポテン打で還れなかった。

 阪神が行ったケース打撃はミスや失敗が相次いだ。状況を設定し、打者は作戦を遂行する。1点を巡る大切な練習だ。

 宜野座村野球場の記者席に座っていると評論家陣の声が聞こえてきた。「昨年わずかの差で優勝を逃した必死さが伝わってこない」「緊張感がない」……。特に失敗があった時に「コーチが誰も叱らない」「その場で声をあげるべきだ」という声が多かった。

 阪神キャンプで毎年のように指摘されている外野の声である。阪神特有の事情もあろうか。人気チームとあって関西のマスコミはその動向を事細かに伝える。叱責(しっせき)が大きく報じられるという懸念である。

 かといって、阪神首脳陣も黙っているわけではない。大きな声ではないが、選手を呼んで監督やコーチが話をしている。練習後は円陣を組み、ミーティングもしている。

 叱るのは人前か、陰でか、という問題である。

 巨人V9監督・川上哲治は<叱ることが教育の原点>と著書『遺言』(文春文庫)に記した。<たとえばバントを失敗した選手にとがめたところで、人格を傷つけるものではない。反省しバント練習に取り組み、(中略)チームもいくらかでも強化される>。だから長嶋茂雄でも叱った。<あえて長嶋を人前で叱れば(中略)チーム全体が引き締まるのである>。

 反対に、近鉄、オリックスを優勝に導いた仰木彬は<叱るよりほめろ>と著書『勝てるには理由がある。』(集英社)にある。<バントでも簡単に見えて難しいもの><当たり前のことを当たり前にやった時に「ナイスプレー」と声をかけてやる。(中略)ほめてやれば、選手の励みにもなるし自信にもつながります。この自信と成功の蓄積が人を育てるということにほかなりません>。

 西本幸雄は人前でほめた。スパーキー・アンダーソンは人前で叱った。この問題に正解などないのだろう。人生に似る野球には正しい答えのない問いがいくつもある。

 恐らく、今の阪神が目指しているのは叱る、褒めるがなくとも選手自身が自分を律するチームなのだろう。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年2月17日のニュース