【内田雅也の追球】「逃」と「挑」 阪神の勝機去った「逃げ」の四球 優勝の「兆し」に対する心

[ 2021年9月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2-8広島 ( 2021年9月29日    甲子園 )

<神・広(20)> 8回2死一、二塁、打者・大盛のとき、岩貞は暴投で走者の進塁を許す(捕手・梅野)(撮影・大森 寛明)
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 文字はよく似ているが「逃」と「挑」では意味が異なる。「兆し」に対するわずかな違いで正反対の結果をもたらす。

 痛い黒星を喫した阪神は逃げていたのだろう。象徴的シーンが8回表2死一塁で救援登板した岩貞祐太の投球である。

 1点を追う展開。しかも6回裏は1死満塁、7回裏は2死満塁と攻めたて、押し気味で迎えていた。逆転への機運は高まっていた。

 この8回表、小川一平が2死から坂倉将吾に安打されベンチは動いた。林晃汰に対し左腕の岩貞を起用した。監督・矢野燿大は念には念を入れる形で、打者1人のためだけに起用したのだろう。重大局面だと強調し、反撃に向かう機運をより高める意味合いもあったと推察する。

 ところが、岩貞はストライクが入らなかった。高め、外角、内角と直球が外れて3ボール。2死一塁で長打警戒の場面。慎重さは必要だ。緊張や重圧もあったろうか。

 いや、逃げていたのだ。見た目には恐怖から逃げているようなボールに見えた。何とかフルカウントにしたが、最後は直球が低めにお辞儀するように外れた。与えてはいけない四球だった。

 直後、連打を浴びて3失点。試合は決まった。継投策は裏目と出た。

 何も岩貞をとりわけ悪者にする気などさらさらない。投手キャプテンでも「逃」となる。チームの現状を映しだしているように思えたのだ。

 打線は9月5日以来、実に13試合ぶりとなる2けた安打を放ったが、好機に凡退を繰り返した。下位球団の広島に連敗は確かに痛い。救いはヤクルトも巨人も敗れたことだが、今はまず自分たちの心を整えることだ。

 こんな時は原点に立ち返りたい。今年のスローガンは何だったか。「挑む・超える・頂へ」の通称「挑・超・頂」。甲子園に大きな看板がある。

 特に「挑」である。新井貴浩(本紙評論家)が阪神時代の2012年に出した『阪神の四番』(PHP新書)で<「逃げ」と「挑戦」>と章を割いている。<不安も恐怖も自分で勝手につくり出しているにすぎない。とすれば、強い気持ちがあれば、それを闘争心に据えることができる>。

 「今の僕たちに一番必要なことは“挑戦すること”だと考えています」とスローガンを決めた際の矢野の言葉にある。「試合結果により評価されがちですが“エラーをしても前に出る”“打たれてもバッターに向かっていく”。そのような姿勢がチームの成長には必要なことと考えます」

 優勝という「兆し」に対し「逃」げずに「挑」みたい。 =敬称略= (編集委員)

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