【内田雅也の追球】「凡戦なし」にする姿勢 惨敗の阪神に必要な「明日」を見た戦い 初回無死満塁の綾

[ 2021年7月11日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1ー8巨人 ( 2021年7月10日    甲子園 )

<神・巨(14)>3回無死、ウィーラーに左越え本塁打を浴びた伊藤将 (撮影・平嶋 理子)                    
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 「無死満塁は点が入らない」というのは俗説だ。統計上、無死満塁は最も点が入りやすい。2004~13年の10年間、無死満塁での得点期待値(平均何点入るか)は2・2だった=鳥越規央、データスタジアム野球事業部『勝てる野球の統計学』(岩波科学ライブラリー)=。数値は古いが、今もさほど変わらないだろう。2点が一つの目安である。

 山際淳司『江夏の21球』で知られる1979(昭和54)年、日本シリーズ第7戦(大阪)。広島のリリーフエース・江夏豊が無失点で切り抜け、日本一に輝いた。

 敗れた近鉄の闘将、西本幸雄から後に「無死満塁は最初の打者が肝心」と聞いた。「1人目で点が入れば大量点も望めるが、入らなければ後の打者に重圧がかかる」

 阪神は1回表、無死満塁を背負った。先発・伊藤将司が四球、二塁打、四球で招いたピンチだ。

 迎えた4番・岡本和真を落ちる球で空振り三振に取った。2点は覚悟の場面のはずが、無失点の希望が芽生え、力みが出たかもしれない。ちょっとした勝負の綾を見た気がする。

 1死満塁。「併殺なら無失点」となって迎えたゼラス・ウィーラーに1ボール2ストライクと追い込みながら、勝負の内角直球が甘く入り、右前適時打された。さらに梶谷隆幸への内角球が死球となり押し出しで2点目を献上した。左右両打者の内角球への制球が乱れていた。

 まだ1死満塁で、さらに二ゴロで1点、重盗阻止の守備も乱れて1点。初回で大量4点を失い、主導権を握られた。腰をすえて打ちたい打線も空回りしてしまった。

 さらに問題は坂本勇人、岡本和真という相手の主軸打者に本塁打を浴びたことだ。復調のきっかけを与え、今後の脅威が増したことになる。ペナントレースを見通し、優勝争いをしていくうえで重要な点だろう。

 野球を愛した詩人サトウハチローの言葉に「甲子園に凡戦なし」がある。自筆の色紙を見たことがある。明日なきトーナメントを戦う高校球児たちがどんな大差でも最後まで敢闘する姿をたたえている。

 負けても明日があるプロ野球も凡戦にしてはいけない。明日に向けて戦いたい。大差がついた後も、外角難球を右前に快打し、追い込まれてもボール球を辛抱して四球を選んだジェフリー・マルテ。「やることは変わらない」と本塁打したジェリー・サンズ。自分を見失わなかった外国人の姿勢にならいたい。 =敬称略= (編集委員)

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