【内田雅也の追球】「五風十雨」のように

[ 2021年2月27日 08:00 ]

雨上がりの宜野座村の畑。イモの葉に水滴がついていた。
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 「五風十雨」という中国の言葉がある。5日に1度風が吹き、10日に1度雨が降れば、農作物がよく実るという。気候が穏やかで天下太平といった意味でも使われる。

 阪神キャンプ地の沖縄・宜野座に前夜、雨が降った。激しく降った。風も強く吹いた。相当な吹き降りだった。確か、以前の雨は10日前だった気がする。「十雨」か。

 グラウンドキーパーのリーダー、阪神園芸甲子園施設部長、金沢健児が前日、「シートを掛けられればいいのですが」と案じていた。前日夕方に大雨に見舞われてはシートを掛けられない。

 大丈夫だった。朝には雨も上がり、キーパーや現地アルバイトたちがメイン球場のシートをはがしていた。泥だらけの彼ら裏方の姿がまぶしい。

 日課にしている朝の散歩は主に宜野座村の農道を歩く。早出の選手たちが動きだす前に歩き始め、全員でのウオームアップが終わる頃に戻る。1万歩がノルマだ。

 雨上がりの畑は美しかった。イモの葉に水滴が光っていた。キャベツ畑にモンシロチョウが来ていた。潮騒とウグイスや鳥の声以外は聞こえない。自然の中にとけ込んだ不思議な気になる。

 球場に戻ると、ドームの手前で球団副社長・本部長の谷本修に会った。新型コロナウイルスのまん延防止で記者の立ち入り区域は相当に制限されており、ロープを隔てて数メートルの立ち話となった。

 「順調と言えると思います」と谷本は言った。西勇輝の離脱が気になる。ぜんそくの症状で23日にキャンプ地を離れ、大阪に帰った。「大事を取ったということです。ちょっと張り切り過ぎたかな。朝5時から動いてましたから」。若手投手を伴い、早朝からホテル周辺をランニングしていたそうだ。エースの離脱にもあわてていない。顔つきが軽症を思わせる。

 一喜一憂してはいけない。焦ってもいけない。

 1月の自主トレ、2月のキャンプ、オープン戦、3月の開幕、梅雨、日照り。台風……と1年、春夏秋冬をかけて戦うプロ野球である。何度も書いてきたが、それは秋の実り、豊作を期待する農業のようである。

 相田みつをの詩に「雨の日には 雨の中を 風の日には 風の中を」とある。どんな日でも、自然を受けいれ、あるがままにいきたい。しなやかに、そして強く。

 キャンプ最終盤。雨は上がり、青空が輝いていた。 =敬称略= (編集委員)

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2021年2月27日のニュース