トヨタ野球部 折れたバット再利用 靴べらに思い込め地域貢献

[ 2020年4月14日 05:30 ]

靴べらの第1号を受け取った、つばさ屋の店主・富田孝さん(中はトヨタ自動車の望月直也内野手、右は高橋優外野手)
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 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、7月の社会人野球日本選手権大会は中止。暗い話題が続く中、選手、スタッフたちは決して前向きさを失ってはいない。地域貢献、エコ活動につながるプロジェクトを組むトヨタ自動車の取り組みを追った。

 慣れない手つきであるとはいえ、その分、一つ一つの工程と丹念に向き合った。グラインダーと呼ばれる研磨、切削用の工具やニス、やすりを駆使。根本から折れたバットのグリップはいつしか、立位で使用できる靴べらに姿を変えた。

 トヨタ自動車野球部はいま、地域貢献とエコ活動を両立させる新たな試みに挑んでいる。1本の靴べらに込められた思いとは。発案者でもある秦健悟コーチが、活動の経緯を明かした。

 「野球の裾野を広げることだけではなく、困っている人の手助けや何かの役に立ちたいという思いがありました。その中の一つのアイデアとして、靴べらを思いつきました」

 発端は首脳陣による年明け初のミーティングだった。かねて、豊田市内を中心に野球教室を開催。年間でも30回以上、取り組んできた。社会貢献活動の一環である一方、そこにはファン拡大、応援動員という側面もある。野球部として、より純粋な思いで、何か人の役に立てることはないだろうか――。思案を巡らせる中でたどり着いたのが、廃棄処分されるはずだったバットを再利用しての「靴べら」づくりだった。

 行動は素早かった。フリー打撃が開始した2月から、折れたバットの回収に着手。作製に関しては、秋田祥孝ヘッドコーチの父で左官業を営む幸一さんの力を借り、仕上げの作業を部員、スタッフでまかなった。3月上旬には第1号が完成。野球部の行きつけで同市内にある居酒屋「つばさや」に、感謝の思いを込めて寄贈した。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、社会人野球も厳しい現実に直面している。今月2日、統括団体である日本野球連盟(JABA)が7月2日に開幕予定だった日本選手権(京セラドームほか)を中止すると発表。開幕は3カ月先ではあったが、ファンがドーム球場という密閉空間に集結することに加え、出場チームが公共交通機関を利用しての移動を伴うことなども勘案した。地域貢献を掲げる団体として、感染リスクを避けざるを得ない中での苦渋の決断。都市対抗大会と並び称される二大大会の一つを失った。

 10日に愛知県が緊急事態宣言を発令したことを受け、野球部は全面活動休止となった。雌伏の時は続くが、活動再開後は靴べらづくりにも再び取り組む。「1本でも多くつくって、みなさんに喜んでもらえたらうれしいです」。秦コーチはナインの総意を代弁した。

 ▼つばさや店主・富田孝さん(56) 選手みなさんのエコに対する素晴らしい取り組みの第1号をいただきまして、大変光栄に思います。一人でも多くの方に選手みんなの取り組みや、社会人野球を身近に感じてもらえるよう発信していきたいと思います。

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