【内田雅也の追球】「苦境」カウントでの粘り――阪神・青柳の収穫と課題

[ 2020年3月9日 08:00 ]

3回、岡本は青柳(左)の前に二飛に倒れる
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 英語のホール(hole)は「穴」で「苦境、窮地」といった意味にもなる。3ボール―2ストライクのフルカウントでかつてはよく、実況アナウンサーが「ピッチャー、バッター、ともにイン・ザ・ホール」と伝えていた。投手も打者も、後がない窮地に追い込まれた状況を指している。

 8日、巨人戦で先発した阪神・青柳晃洋は5回を1失点でまとめた。2回表を除き毎回得点圏に走者を背負い、よく粘ったと言うべきだろうか。

 その粘りが顕著だったのはフルカウント、つまり投手も打者も窮地に追い込まれた状況での投球である。この日、青柳のフルカウントからの投球を示してみたい。(◎=打球、F=ファウル、×=空振り、●ボール)
 <1回表>
岡本 ●=四球
 <2回表>
若林 ◎=二ゴロ
 <3回表>
北村 ●=四球
岡本 FFFF◎=二飛
 <4回表>
大城 ◎=中二塁打
山本 FFFF×=三振
若林 ◎=遊ゴロ

 のべ7人に5打数1安打、2四球。計15球投げストライクが13球ある。ボール球2球は当然ながら四球を意味する。

 光ったのは3回表2死一、二塁での4番・岡本和真と、4回表1死二塁での山本泰寛にフルカウントから4球連続ファウルで粘られながら、根負けしなかった点だ。

 この山本打席の時、球団本部部長の木戸克彦と一緒だった。元捕手、元ヘッドコーチの冷徹な目はいつも参考になる。

 「さっきの岡本の時もそうだけど、まあ、よく粘った、しのいだよ」と言った。「もちろん、しのいだとはいえ、その苦しいカウントにしたのも自分なんだけどな」

 つまり、フルカウントで粘ってしのいだのは収穫だが、フルカウントにしたのは反省点なのだ。

 この点はもちろん青柳本人も分かっている。試合後、記者団に「粘れましたが……何もわざと悪いカウントにしたわけじゃありませんので」と話しているのを聞いた。

 ちなみに昨季、青柳のフルカウントでの投手成績は打者75人、53打数12安打(被打率・226)、22四球だった。たった1試合でも割合はほぼ昨季同様だった。

 昨季は規定投回数に達して9勝9敗。苦境のカウントを減らし、またはしのぐ術が身につけば、貯金の作れる投手となるだろう。             =敬称略=
     (編集委員)

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2020年3月9日のニュース