声を大にして言いたい。「俺はスクイズが好きだ!」

[ 2019年9月24日 13:30 ]

<ヤ・中15>9回1死三塁、京田がスクイズを決めて勝ち越す(撮影・大塚 徹)
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 【君島圭介のスポーツと人間】バントは嫌いだ。アウトを相手にひとつあげてしまうし、何よりワクワク感がない。犠打よりはセーフティーバントでもプロの技を見せて欲しいと思う。

 ただ、スクイズは別だ。今年8月2日のヤクルト―中日戦(神宮)。4―4の9回1死三塁の場面で、中日・京田のスクイズが決勝点をもぎ取った。

 翌日、中日の伊東ヘッドコーチに「あのスクイズはしびれました」と伝えると、稀代の策士は「そうか、しびれたか」とにやり笑った。そのとき、中日は強くなると確信した。

 まだ1死。京田は前の打席で安打を放っていた。強行でもいいし、彼の俊足ならセーフティースクイズでチャンスを広げる選択肢もあった。それでも1点を取るためだけのスクイズを選ぶのは、ベンチが勝負の責任を取るという覚悟の現れだ。

 「そりゃあ、スクイズのサインを出すときは心臓ばくばくだよ。バッテリーに外されたら終わり。サインを出して点が入らなかったら選手じゃなく、全部こっちの責任だからな」

 そう話したのはソフトバンクの森ヘッドコーチだ。伊東ヘッドのようなプロでの華やかな実績はないが、PL学園では捕手としてセンバツ初優勝に導き、東洋大時代は大学日本代表に何度も選ばれた。高校、大学、日本代表のすべてで主将を勤めた野球の達人で、現在は工藤監督の参謀であり、常勝軍団の頭脳だ。

 西武を1ゲーム差で追う9月23日のオリックス戦(京セラドーム)。3点リードの2回1死三塁で、ソフトバンク・甲斐がスクイズを決めた。敵の戦意さえも奪う鮮やかな4点目だった。

 まだ試合は序盤、甲斐が倒れても次は前の打席で三塁打を放っている川島が控えていた。それでも1点を取りに行ったベンチの覚悟に心が震えた。

 勝負どころと判断しながら、選手に運命を託す選択はベンチの責任転嫁と言ってもいい。ベンチが腹をくくって決断できる。ソフトバンクが強いわけだ。だから声を大にして言いたい。

 「俺はスクイズが好きだ!」

 そこには野球の面白さが凝縮されている。ただ、京田のスクイズを導いたのは走者を三塁に進めた亀沢の犠打であり、甲斐のスクイズをお膳立てしたのは中村晃の犠打だった。野球は深い。やっぱりバントは大事なのだ。(専門委員)

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2019年9月24日のニュース