NPBは審判を守るためにもチャレンジ制度を導入すべし

[ 2017年4月28日 10:00 ]

<広・D2>7回2死一、二塁、小窪内野手の遊ゴロの判定を巡り山路塁審(左)に猛抗議し、退場処分を受ける緒方監督
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 【永瀬郷太郎のGOOD LUCK!】広島の緒方孝市監督が4月19日のDeNA戦(マツダ)で、審判への暴言で退場になった。

 きっかけとなったのは一塁でのアウト・セーフの判定。まずは0―3で迎えた6回1死、田中は三遊間へゴロを放ち、倉本のワンバウンド送球がロペスのミットに届く前に一塁ベースを駆け抜けたように、見えた。

 緒方監督はベンチを飛び出して抗議したが、判定が覆られないのは分かっている。すぐに引き下がった。

 だが、2度も続いたら我慢できない。今度は7回2死一、二塁。小窪はショート前への詰まったゴロで一塁へヘッドスライディングした。今度も倉本の送球より早く手がベースに届いていたように、見えた。

 満塁だと思った瞬間、判定は「アウト!」。そりゃあ怒るわ。監督としては必死にプレーしている選手、一生懸命応援してくれているファンのためにも引けない。抗議が長引く中、「暴言」があったとして当該の一塁塁審から退場を宣告されたのだ。

 納得いかない判定で反撃機をつぶした広島はこの試合から4連敗。開幕2戦目から10連勝の勢いにブレーキがかかることになったが、気の毒なのはカープだけじゃない。審判もつらい。

 今回のように判定を巡って物議を醸したシーンは、すぐ動画投稿サイトにアップされる。不利な判定をされたチームのファンがテレビの中継映像を投稿するのだろうが、スロー再生されたら一目瞭然…。これがずっと残るのである。

 戦後の審判で1970年に野球殿堂入りした二出川延明さんが「俺がルールブックだ!」という名セリフを残した時代とは違う。今やプロ野球全試合が開始から終了までテレビ中継され、その一コマ一コマが簡単に切り取られる。NPBは審判の名誉を守るためにもチャレンジ制度を導入すべきだ。

 2010年に本塁打か否かの打球に対してだけ導入されたリプレー検証(ビデオ判定)。昨年はコリジョンルール導入と同時に、審判からの要請を受けて本塁上のアウト・セーフの判定にも拡大された。

 2014年にチャレンジ制度を導入したMLBのように、本拠地30球場に自前のカメラを設置してニューヨークで一括管理するという大がかりなことをしなくても、中継局の協力を得ればリプレー検証は可能。本塁以外の塁でもできないわけがない。

 のべつまくなしにやられたら興ざめだが、条件を決めてこれはという場面だけチャレンジできるようにすれば、その結果に監督も選手もスタンドも納得する。後味の悪さはなくなるはずだ。

 かつては血気盛んな監督がたくさんいた。ロッテの手も足も出す元400勝投手や、東京ドームで試合後に審判室のある三塁側へ審判を追いかけていって足を出した中日の闘将…。

 広島のマーティ・ブラウン監督は一塁ベースを引っこ抜いたり、本塁ベースを砂で隠す抗議で沸かせてくれた。だが、当初は連盟への制裁金を払っていた球団が「次から自分で払え」と言ったらやらなくなったらしい。

 DeNAの中畑清前監督は手を出さないようペンギンポーズで抗議するたびに胸や腹が審判の体に触れて「暴力行為」で3度の退場を食らった。制裁金は10万円、20万円、40万円と倍々ゲーム。こちらは球団から「自分でやったことだから」と冷たく言われ、全て自分で払ったという。

 そんな監督の退場ドラマがなくなるのはちょっぴり寂しいが、チャレンジ制度は同時に「誤審」をなくしてくれる。疑惑のシーンがネットの世界にさらされることもなくなる。審判に退場されたら野球のゲームは成立しないのである。 (特別編集委員)

 ◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年、岡山市生まれ。野球記者歴36年。1996年9月20日の巨人―中日戦(東京ドーム)の試合終了後、サヨナラ負けを喫した中日・星野監督が審判団に「公平にやれ!」と抗議して足を出し、蹴られた審判も「何だ、この野郎!」と応酬する現場を目撃した。

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