21世紀枠、そしてセンバツの意義(上)

[ 2017年2月7日 10:00 ]

出場32校が出そろったセンバツ選考委員会(1月27日、毎日新聞大阪本社オーバルホール)
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 【内田雅也の広角追球】それは刺激的な言葉だった。1月27日に開かれた第89回選抜高校野球大会の21世紀枠候補校推薦理由説明会。毎年、マスコミ公開で行われている。抽選で最初にプレゼンテーションを行ったのは中村(高知)を推薦する四国地区理事、高知県高校野球連盟の山崎正明理事長だった。

 「昨年夏の選手権大会では全国で唯一、高知県の子どもだけ甲子園の土を踏めませんでした」と切り出した。「県内強豪私立の存在が県立校の甲子園出場を阻んでいます」

 昨夏の高知代表は7年連続18回目出場の明徳義塾だった。ベンチ入り18人の出身中学は全員が大阪など他府県の選手だった。同様に秀岳館(熊本)も全員が他府県出身だったが、熊本出身としてはアドゥワ誠投手が松山聖陵(愛媛)で、西浦颯大内野手が明徳義塾で出場していた。

 野球留学を引き合いに高校野球の魅力の一つ、郷土愛に訴えかけた。古くから、甲子園はふるさとを思わせる象徴的存在だった。地域密着は21世紀枠の選考基準でもある。ただ、ここで野球留学の是非を論じるつもりはない。

 山崎理事長は続けて、中村の奮闘をたたえた。「そのなかで中村高校は夏の高知大会で準優勝、新チームとなった秋の県大会は私立のシード3校を破り、40年ぶりに優勝を果たしました」

 一通り9校のプレゼンが終わり、21世紀特別選考委員との質疑応答となった。日本高野連顧問で作家の佐山和夫さんが中村の推薦文書の内容を問うた。「四国地区が中村を選んだ理由に土庄(香川)、今治北大三島分校には“強く推せる理由がなく”とある。では中村はどうして選ばれたのか。高知で優勝という戦績でしょうか。他校は戦力がなくて落ちたのか」

 推薦理由ではグラウンドを使用できるのは週2回、周辺の過疎化で対外試合には往復5時間かかる遠隔地という困難状況や、食事トレーニングの工夫、早朝の清掃活動……なども訴えていた。

 それでも戦績を問われ返答に困った山崎理事長が「われわれは県でも四国でも一定の戦績は重視します」と答えると、佐山さんは「戦績ありき、では困るんです。そうではないと信じたい」と語気を強めた。さらに、21世紀枠の選考基準を報じた主催の毎日新聞の記事を「勝敗にこだわらず多角的に出場校を選ぶ選抜大会の特性を生かし、技能だけではなく高校野球の模範的な姿を実践している学校……」と読み上げた。

 21世紀枠も17年目を迎えた。近年は「選考基準が曖昧」「戦力重視で選ぶべき」「役割を終えた」……といった批判も聞こえる。同枠創設を提唱していた佐山さんはいま一度、原点に立ち返る機会とみたのだろう。

 基準が曖昧との批判は確かにある。明確な基準となれば、勝敗のみで決着をつけるしかない。だが世の中は数値化できるものだけで動いていない。数字では表せない人間の心や姿勢を評価する物差しもまた必要ではないだろうか。

 背景に、選手権とは違う選抜の歴史がある。戦後、大会消滅の危機があった。(編集委員=つづく)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや)1963年2月、和歌山市生まれ。小学校卒業文集『21世紀のぼくたち』で「野球の記者をしている」と書いた。桐蔭高(旧制和歌山中)時代は怪腕。慶大卒。85年入社から野球担当一筋。大阪紙面のコラム『内田雅也の追球』は11年目を迎えた。

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