なぜ戦争を憎む伯母が…元TBSドラマPがドキュメンタリー初挑戦 取材拒否の苦心も“戦争花嫁”真実の愛

[ 2023年3月17日 12:00 ]

ドキュメンタリー映画「War Bride 91歳の戦争花嫁」(C)TBSテレビ
Photo By 提供写真

 3回目を迎える「TBSドキュメンタリー映画祭2023」が17日、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で開幕。TBS日曜劇場「JIN―仁―」の演出や「半沢直樹」のプロデューサーを務めた同局コンテンツ制作局・川嶋龍太郎氏(50)がドキュメンタリー作品に初挑戦した「War Bride 91歳の戦争花嫁」が上映される。第2次世界大戦後に米軍兵士と結婚した自身の伯母の人生をたどる意欲作。川嶋氏に話を聞いた。

 同映画祭は2021年にスタート。第1回は劇場公開もされ、ヒットした「三島由紀夫vs東大全共闘~50年目の真実~」などが話題を呼んだ。今回も多彩な15作品がラインアップされ、川嶋氏の初ドキュメンタリー作品となった「War Bride 91歳の戦争花嫁」に注目が集まる。

 タイトルの「戦争花嫁」とは戦後、駐留した米軍や連合国関係者と結婚した女性のこと。米国に渡った戦争花嫁は100万人以上、日本からの戦争花嫁は4万人を超えるという。川嶋氏の伯母は桂子・ハーンさん、現在は92歳。1951年(昭和26年)、20歳の時に米軍兵士と結婚し、現在も暮らしている米オハイオ州ライマ市へ移住した。

 戦後5年、米兵と歩いているだけで娼婦と言われるような時代。桂子さんは何故、敵国の軍人と結婚したのか。そこにあった幸福とは――。激動の時代を生きた桂子さんの苦悩や葛藤を当時の世相と照らして描く「真実の愛の物語」。ナレーションは「半沢直樹」なども担当した元NHKアナウンサーの山根基世さんが務めた。

 22年2月、局内のドキュメンタリー企画募集を目にした時、川嶋氏は桂子さんのことを思い出した。その前年10月、桂子さんは広島で行われた戦争シンポジウムに米ライマ市からオンライン参加。「横浜大空襲」(1945年、昭和20年)に遭った経験を語った。

 「その時、桂子さんは『戦争を憎んでいます』と語っていたんです。そんな桂子さんがどうしてアメリカの軍人と結婚したのか。ストレートな疑問が湧きました」

 川嶋氏は7歳の時に1カ月間、米国に滞在。桂子さん一家と初対面した。その後、19歳の時に再び1カ月間の滞在など、米国に住む桂子さんと会ったのは「回数だけで言えば4~5回ぐらい。スカイプで度々しゃべってはいましたが、馴れ初めなど突っ込んだ話を聞いたことはありませんでした」。企画が通り、昨年9月、桂子さんの15歳年下の妹で自身の母、撮影を手伝ってくれる桂子さんの甥とともに渡米。桂子さんや関係者に約100時間に及ぶインタビューを敢行した。

 ドキュメンタリーを撮るのは今回が初。「ドラマの場合、ディレクター(演出)がこの役者さんのアップを撮りたいと思えば、カメラマンや照明マン、スタッフみんなが動いてくれて、一番いい表情が撮れるわけじゃないですが。それが今回は、まず自分がカメラを持って画を撮らないといけない。渡米前に日本で何人かにインタビューもしたんですが、音声が録れていなかったり。基本的な部分からトライアンドエラーをしていったのはやはり大変で、同時にドラマ時代は恵まれていたなと痛感しました」と悪戦苦闘ぶりを明かした。

 桂子さんは基本的にイスに座ってインタビューに応じ、正面や引きの画などカメラ3台を固定して撮ったが「例えば、歩きながら話してもらってもよかったんじゃないか、と。編集作業に入って、動きの少なさに気が付きました」と頭をかいた。

 差別などデリケートな内容も含む取材のため、インタビューを断られることも。「ドキュメンタリーのプロの方なら、取材拒否の過程も、そのまま洗いざらい作品に盛り込むのかもしれませんが、今回、それはしませんでした」。アクシデントとその扱い方に苦心した。

 それでも「人や事実を追い掛ける面白さに魅入られました」と次回作に前向き。「まずは『戦争花嫁』のこと、桂子さんの生き様を皆さんに知っていただくためにも(今回の79分版から)もう少し手を加えて是非、劇場版にしたいと思っています。桂子さんのために、ライマでも上映できたら」と構想は広がるばかり。矍鑠(かくしゃく)とした桂子さんの姿と言動、その信念は見る者の心を揺さぶるに違いない。

 ◇川嶋 龍太郎(かわしま・りゅたろう)1973年生まれ。96年、制作会社に入社。09年、TBSにキャリア入社。98年1月期のTBS「スウィートシーズン」でドラマ初ADを担当後、様々なドラマ番組の制作に携わる。05年1月期のTBS日曜劇場「Mの悲劇」で演出家デビュー。09年、「山田太郎ものがたり」「JIN―仁―」「ヤマトナデシコ七変化」などの演出を手掛け、14年7月期の日曜劇場「ルーズヴェルト・ゲーム」からプロデューサーを担当。福澤克雄監督の下、「下町ロケット」(15年版)「陸王」「半沢直樹」(20年版)など数々の大ヒット作に携わった。

 【第3回TBSドキュメンタリー映画祭】今回は「オートレーサー森且行」「シーナ&ロケッツ」など15作品を上映。

 東京は3月17日(金)~26日(日)、ヒューマントラストシネマ渋谷。「War Bride 91歳の戦争花嫁」の上映回は3月19日(日)14:15(舞台あいさつ付き)、3月20日(月)15:15、3月22日(水)17:00。

 大阪は3月24日(金)~4月6日(木)、シネ・リーブル梅田。「War Bride 91歳の戦争花嫁」の上映回は3月26日(日)16:10(舞台あいさつ付き)、4月3日(月)16:10。

 名古屋は3月24日(金)~4月6日(木)、伏見ミリオン座。「War Bride 91歳の戦争花嫁」の上映回は3月26日(日)11:40(舞台あいさつ付き)、3月28日(火)9:30。

 札幌は4月15日(土)~21日(金)、シアターキノ。上映スケジュールは未定。

続きを表示

この記事のフォト

2023年3月17日のニュース