【内田雅也の追球】阪神・青柳 球速やフォームの緩急、7秒差の“間”を操る「詩人」のごとき投球

[ 2022年6月5日 08:00 ]

交流戦   阪神3―0日本ハム ( 2022年6月4日    甲子園 )

<神・日>阪神先発の青柳(撮影・北條 貴史)
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 8回零封で6勝目をあげた阪神・青柳晃洋は全く危なげなかった。散発4安打。三塁はもちろん、二塁を踏ませたのも1度だけだった。

 その投球のすごみを考えると、速球やツーシーム(シュート)とチェンジアップの20キロの緩急差だけでなく、クイック投法やゆったり足をあげるフォームの緩急、さらに間合いの長短に差があることに気づく。

 好例が立ちあがりに見られた。1回表1死一塁で打席は3番・清宮幸太郎。ボールをセットしてから投球始動するまでの時間を順に書いてみる。

 (1)4秒65 ボール
 (2)2秒01 見逃し
 (3)3秒39 見逃し
 (4)8秒01 ボール
 (5)3秒50 ファウル
 (6)7秒36 空振り

 2ボール2ストライクから三振に取り、スタートしていた一塁走者・上川畑大悟は盗塁死。ヒットエンドランだろうか。三振併殺に取ったのだ。

 セットしてから7秒や8秒というのは俗に言う「長持ち」。息を止めて待つ打者には相当な時間である。焦れるのはもちろん、タイミングが取りづらい。走者も同じで、スタートが切りづらい。だから清宮は沈むシンカーに空振りし、上川畑は送球を受けた中野拓夢が待ってタッチするほどの憤死だった。

 青柳は走者なしでもセットポジションから投げるが、この時の間合いは早い。多くは1秒台だ。つまり1秒から8秒まで7秒差という時間を操っているわけだ。

 「詩人は野球の投手のごとし」とピュリツァー賞4度受賞のアメリカの詩人、ロバート・フロストが書いている。「詩人も投手も、それぞれの間(ま)を持つ。この間こそが手ごわい相手なのだ」。原文(英文)では先の間は「モーメント」、後の間は「インターバル」と微妙に異なる。野球で言えば、投球のフォームとテンポだろうか。青柳は詩人のように投球をつづっているわけだ。

 同じ下手投げの名投手、杉浦忠が本紙評論家だったころ、よく飲み、よく話した。南海(現ソフトバンク)での現役時代、速球とカーブだけで牛耳っていたが「緩急を使えば、変化は無限だよ」と語っていた。頭脳的な投球術があったのだ。

 泉下の杉浦が青柳の快投を見れば、大いに語ることだろう。 =敬称略= (編集委員)

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2022年6月5日のニュース