ハム吉川“守護神”起用は再生への「ショック療法」 全身で受け止めた不甲斐なさ

[ 2016年9月9日 09:15 ]

<日・ロ>9回に登板も同点に追いつかれ降板する吉川

 見たことがない表情だった。7日の日本ハム―ロッテ戦(札幌ドーム)。交代を告げられ、三塁ベンチに座り込んだ日本ハム・吉川は大粒の汗を拭うことなく、目を見開いた。背筋を伸ばし、戦況を見つめる。それは悔しさを、自らの不甲斐なさを全身から受け止めているようだった。

 試合後、球場出口で吉川は「リリーフの方々の大変さが身に染みた。(9回を)投げさせてもらっている以上はゼロに抑えないといけなかった」と声を絞り出した。普段、報道陣に感情を表に出すことは少ないが、この時ばかりは違った。チームを勝利に導くことができなかったことへの申し訳なさ、責任感がはっきりと伝わってきた。

 この回、1点リードの9回から登板すると先頭打者の代打・中村にいきなり四球を与えた。その後1死一、三塁で代打・井口は捕飛に打ち取ったが、続く角中に左翼フェンス直撃の同点二塁打を浴びて、降板。プロ10年目での初セーブに失敗した。そのまま延長12回で引き分け。シーズン最終盤の首位争いが佳境を迎える中、痛恨のドロー劇だった。栗山監督は常々、「自分のためにやるより、人のために、チームのためにやるほうがいい結果が出るに決まっている」と言う。守護神・マーティンが左足捻挫で戦線離脱。吉川は今季、先発で7勝5敗、防御率4・18と本来の力を発揮できていない。12年パ・リーグMVP左腕の力を再び引き出すにはどうすればいいか。その答えが吉川の抑え起用だった。

 今季、大谷のDH解除、1番投手起用にとどまらず、増井の先発転向など栗山監督の失敗を恐れない采配が光る。「守護神・吉川」は一時的なものだというが、殻を破りきれない吉川を再生させる「ショック療法」としては興味深い。むしろ、150キロ台の剛球を誇る左腕は球界でも希少で、スライダー、フォークのコンビネーションは短いイニングを任せる適正があると言える。

 「こういうところ(抑え)をしっかり投げられるようにならないといけない。ストライクゾーンに強い球を投げるという意味では(先発では)変わらない」と吉川。ベンチで見せたあの表情が忘れられない。吉川の中で何かが変わったはずだ。輝きを取り戻すきっかけになるか。その姿を追っていきたい。(記者コラム・柳原 直之)

続きを表示

2016年9月9日のニュース