北島康介氏 有観客パリ五輪で考えた“応援される選手”とは「好きな競技に向き合い、楽しんで取り組んで」
【レジェンドの視点】 新型コロナウイルスの影響で無観客だった01年の東京五輪から3年、閉幕したパリ五輪には観客が戻り、選手たちには声援が送られた。競泳の男子平泳ぎで04年アテネ、08年北京五輪2大会連続2冠の北島康介氏(41)は応援を力に変えて、五輪の表彰台に立った。レジェンドが考える「応援される選手」とは――。 (取材・構成 柳田 博)
パリ五輪は各会場で大歓声が響きました。大勢の観客も選手たちと一緒になって盛り上がる五輪本来の姿を取り戻した大会でした。
無観客で行われた東京五輪はテレビの仕事で伝える側として参加しましたが、きつかったというのが正直な気持ちです。この五輪をどう伝えればいいのか、考えることが多かった。この感動の瞬間を生で見てもらいたかったなと思うこともたくさんありました。特に子供たちにその現場の音や空気、独特の空間を体感してもらうことができなかったのは残念でした。
今回、選手たちはお客さんがいる中で競技ができる幸せを感じたと思います。東京を経験している選手は違った喜びを感じたのではないでしょうか。
私は大観衆の中で泳ぐことが大好きでした。初めて出場した00年シドニー五輪では大歓声にびびり、圧倒されました。ここでは結果を残せませんでしたが、翌年に福岡で行われた世界選手権では世界大会で初めてのメダルを獲得しました。普段はおとなしい日本の観客が大声で応援してくれて、こんなに水泳ファンがいるんだと驚きました。あの応援があったからこそメダルを獲れたと思っています。そこで自信をつかんで、観客のいる大舞台で勝ちたいという思いが強くなりました。
競技場での声援や、ファンや周囲の方たちの応援は選手にとって大きな力になります。最近では多くのアスリートから「応援される選手になりたい」という声を聞くようになりました。でも、実は凄く難しい問題だと思っています。
応援される選手になるためには何が必要か。ライバルを尊敬する、今ある環境に感謝する…いろんなことが大事です。でも、全ていい子になる必要はないと思うのです。
私は現役時代、応援される選手になろうとは考えていませんでした。メディアに対しても言いたくないことは言わなかった。どちらかというと立ち向かっていくタイプだったと思います。ただ、恵まれたことに、多くの人に支えられて、応援してもらいました。
振り返ると本当に水泳が好きだったんだと思います。勝ちたい、自分を超えていきたい、としか考えていませんでした。それが一番の楽しみで、自分のリミッターを切って、競技に取り組んでいました。
今誰もが応援したくなる選手と言えば、メジャーの大谷翔平選手でしょうか。彼を見ていると、本当に野球が好きなんだなと思います。打席に入るたびに何かやってくれそうな雰囲気を感じます。もしかしたら、現役時代の自分はそんなふうに見られていたかもしれません。でも、あんな爽やかな笑顔で競技はできませんでした。
大谷選手のようなアスリートがいる一方で、最近の選手は自己追求型になるのが難しいとも思います。今はスマホで情報がどんどん入ってきます。選択肢がたくさんあり、いろんなことにチャレンジできるのはいいけれど、もう少し一つのことに粘り強く取り組んでもいいと思うことがあります。
選手たちは自分がどう見られているかと考え過ぎないでほしい。とりつくろう必要もないし、ずる賢さはいらない。好きな競技に向き合って追求し、楽しんで取り組んでほしい。結果的にそんな選手が応援されると思っています。
パリ五輪の盛り上がりを見ると、やはり4年に1回来る五輪は面白いと感じました。これだけ多くの競技で活躍する選手がいて、盛り上がる国は日本しかない。私は真剣に競技に向き合う選手たちをずっと応援していきたい。 (競泳男子平泳ぎ五輪2大会連続2冠)
◇北島 康介(きたじま・こうすけ)1982年(昭57)9月22日生まれ、東京都出身の41歳。五輪は00年シドニー大会から4大会連続出場。04年アテネ、08年北京で2大会連続平泳ぎ2冠。金4個含む計7個のメダルを獲得。16年に現役引退。現在はスイミングスクール「KITAJIMA AQUATICS」などを運営する「株式会社IMPRINT」代表。東京都水泳協会会長も務める。
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