華やかさの裏で“アスリートファースト”外れた運営 水質問題に揺れたセーヌ川…最優先されるべきは何か

[ 2024年8月13日 04:30 ]

スポーツニッポン一般スポーツ部長・首藤昌史が総括

トライアスロンでセーヌ川を泳いだ選手に体調不良者が出ている
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 無観客だった東京から3年。2024年のパリは祝祭感にあふれていた。世界有数の観光都市すべてがアスリートのステージ。史上最多のチケット販売は、スポーツの祭典を待ち望んだ人々の声のようにも感じられた。

 その華やかさの裏で“アスリートファースト”の理念から外れた運営があったことは残念だった。最たる例は水質問題に揺れたセーヌ川だ。公式練習なしで本番を強行したトライアスロンは、レース後に体調を崩す選手が続出した。さらに、オープンウオータースイミングではスウェーデン選手がレース前に棄権する事態となった。最優先されるべきは何か。もう一度、考えるべきだろう。

 日本選手団は、20個の金メダルという目標を見事に達成した。金メダル数だけでなく、総数ともに海外で行われた五輪で最多。ロシア、ベラルーシといったスポーツ強国不在という背景はあったが、地元開催の後の落ち込みは最小限に抑えられた。

 強化費の重点配分、いわゆる「選択と集中」を唱える日本。柔道や体操、フェンシング、レスリングがメダルの“大票田”だったことは間違いない。一方で、飛び込みや近代五種で新たな歴史を刻み、馬術は92年ぶりの表彰台。メダル獲得の競技数は海外開催最多だった12年ロンドンの13を超え、16まで増えた。東京に続き全競技日でメダルが途切れなかったのは、日本のボトムアップを印象づけた。

 五輪はいわば、ショーケースだ。アスリートは観戦者に感動を与えるだけでなく、次世代に扉を開くのも役割の一つだ。それを考えれば、多くの競技団体に強化費を配分し種をまく時期と、メダル獲得という目的に作用する選択と集中の時期を分けて考えるべきではないだろうか。

 競技団体は結果に一喜一憂せず、次にどうすれば発展につながるか考えるタイミングを迎える。盛り上がりを一過性にしないために何ができるか。スポーツ関連の国家予算が100億円を超える現在だが、ルール上は国からの補助金のみでは選手強化策は実施できない。つまり、自己資金をどう集めるかは永遠の課題だ。また、間口を広げ競技人口を増やすための草の根運動のビジョンも必要となる。

 最後にSNSで飛び交う誹謗(ひぼう)中傷についても触れておきたい。選手や役員による大会期間中のメディア活動を禁じてきたIOCが、五輪参加者によるSNS発信を認めたのは12年ロンドン大会。若者のスポーツ離れを憂慮し、アスリートの影響力を利用する動きは拡大し続けている。トレンドが今後も変わらない以上、発信する権利の裏にある危険性を選手は認識する必要がある。もちろん、悪質な投稿への対策が不可欠であることは、言わずもがなである。

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