アーチェリー パリの金候補・安久詩乃 会社勤めで目指す夢舞台の意義 成長した「考える力」

[ 2023年3月14日 12:00 ]

的を狙う安久詩乃(撮影・須田 麻祐子)
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 24年パリ五輪の開幕まできょう14日で500日となった。今年は各競技で予選が本格化し、日本代表も続々と決まる見通しだ。アーチェリー界にも新星がいる。安久詩乃(あぐ・うたの、24=堀場製作所)だ。東京五輪出場をあと一歩で逃してから、約2年の月日を経て成長を遂げた。昨年のW杯パリ大会では日本女子の個人として初優勝。24歳のホープが、これまでの歩みと金メダルへの思いを語った。 (取材・構成 西海 康平)

 「HORIBA」のロゴが入った練習着を身にまとい、安久が矢を放ち続ける。来月7日から競技が始まる世界選手権兼アジア大会最終選考会に向け、現在は母校の同大などで調整中だ。「2月の頭から会社の業務はお休みをいただいて、練習に集中できる環境をつくってもらっています。1日に400~450本ぐらい打ち込んでいますね」と充実した表情を浮かべた。

 まだ大学生だった21年3月。5人のみが出場できる東京五輪代表最終選考会に名を連ねた。だが、第1日に4位と4点差の最下位で落選。最終日へ勝ち上がれず、上位3人に与えられる出場権を逃した。「五輪に対する準備ができていなかった。経験値もなくて、試合当日に自信を持って打てなかった」。涙に暮れたのもつかの間、翌月には堀場製作所に入社した。

 社会人になって生活は一変した。総務部で午前8時30分から仕事を始め、定時より1時間早い午後4時15分に退社。そこから会社近くの練習場に行き、1人で2~3時間、トレーニングを行う。水曜と土日祝日を除いて基本的に週4日勤務しているため、大学生の頃より練習量は少なくなった。当初は戸惑いもあったが、半年間が経過して違った変化があった。

 「環境に慣れてきたのもあるけど、自分にとって一番大きかったのが、会社の人たちが応援してくれたこと。近い部署の方や、関わったことのない方もメッセージをくださった。実際にアーチェリーをするのは一人だけど、応援してくれる人がいっぱいいる。会社に所属してスポーツをする意味が分かって“また目標を持ってやらないと”“もう一回、頑張りたい”っていう気持ちが出てきた」

 大学卒業後、より競技に集中できるプロのような環境を選択することもできた。だが、その道を選ばなかったのは、ずっと大切にしてきた「応援される選手になりたい」というモットーがあるから。「アーチェリーがうまいだけじゃなく、一人の人間として自立し、常識がある人間になる。どっちも頑張る道を選びたかった」。地元・京都に本社を置く堀場製作所に就職し、競技と両立してきた。

 今回のように1カ月単位で業務から離れるのは入社後初めて。普段は日々、仕事を終えた後に独りきりで矢を放つ。「ある意味、集中できる環境。“今日はここを気をつけよう”と思ったら、そこに集中する。時間が限られている分、考えて練習することが身についたし、練習の質は上がった」。昨年6月のW杯パリ大会では、リカーブ女子個人で優勝。同種目を日本人が制すのは史上初めてだった。

 「練習を今まで以上に考えてやるようになった分、考えていたことが試合でできたときに、より一層の自信になる。今までは何となくできていたことが考えてできるようになってきた」

 再現性が求められるスポーツだけに、思考力を身につけた意味は大きい。直近の目標は世界選手権とアジア大会の出場権獲得だ。その上で「来年の五輪で金メダルを獲得するのが大きな目標」と言い切った。悔しさをバネにはい上がってきた24歳。周りの支えと自信を力に、パリへの道を切り開く。 (西海 康平)

 ◇安久 詩乃(あぐ・うたの)1998年(平10)8月27日生まれ、京都市出身の24歳。3歳から14歳までクラシックバレエを習い、同志社女子中1年で友人に誘われて競技を始めた。同志社女子高2年で当時の高校記録を打ち立て、17年に同大に進学。18年に全日本学生選手権で2位。21年に堀場製作所入社。1メートル59、54キロ。

 ▼アーチェリー五輪代表への道 日本から男女それぞれ最大3人がパリ五輪に出場できる。4月7日から競技が始まる世界選手権兼アジア大会最終選考会(夢の島公園)に、男女各16人が参加。世界選手権とアジア大会に出場する男女各3人、W杯に出場する男女各4人が決まる。世界選手権とアジア大会の結果次第では、五輪の出場権を獲得する可能性がある。それらで決まらなかった場合、24年に国内の選考会が開かれ、選ばれた選手が世界アーチェリー連盟が開くパリ五輪最終選考会に出場する。

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