岩渕に金色の抱擁 記録は4位も記憶は永遠、トリプルアンダーフリップ挑戦に“仲間”たちが称賛

[ 2022年2月16日 05:30 ]

北京冬季五輪第12日・スノーボード女子ビッグエア ( 2022年2月15日    首鋼ビッグエア競技場 )

3本目の試技で「トリプルアンダーフリップコーク」に挑んだ岩渕麗楽(右から2人目)はなだれ込んだ選手たちに抱きしめられる(撮影・小海途 良幹)
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 誰も予想していなかった大技に挑み、金メダリスト以上の称賛に包まれた。暫定4位で迎えた勝負の3回目。1、2回目と同様にレギュラースタンスで飛び出した岩渕が、女子BAでは誰も挑んだことすらないトリプルアンダーフリップにトライした。着地も決まったかに思われたが、バランスを崩して尻もちをついた。頭を抱える20歳の元に他の選手が駆け寄り、その挑戦を称えた。

 「また4位になってしまって悔しい気持ちの方が大きいが、最後はチャレンジできて良かった。競い合った選手が、一緒に喜んでくれて良かった」

 雪上では練習すらしていなかった大技だ。この日のために、2年前の夏からエアマットの施設で回数を重ね、爪を研いできた。予選では2回目に回転を抑えた技を試し手応えをつかんだが、続く3回目で転倒した際、左手甲を骨折。得点につながるグラブ(ボードをつかむ)も「つらかった」という状態で「トリプルに挑戦して勝ちたい気持ちが強かった」と初心を貫いた。

 16歳で出場した平昌でもBAで4位と健闘。当時としては最高難度の大技で、この日は2回目に悠々と成功したバックサイドダブルコーク1080をクリーンに決められず、メダルに10点、届かなかった。悔し涙を流す一方で達成感もあったが、観戦に訪れていた父・和宏さんに「でも、泣くほど努力してないよね?」と指摘され、打ちのめされた。

 その後の4年間はサボりがちだったトレーニングに本格的に着手。専属トレーナーの指導も仰いだ。苦手な技は練習でも避けがちだったが、恐怖心を振り払って地道に取り組んだ。「たくさんの人に支えられてきたので、形に残るもので恩返しをしたかった」と岩渕。メダルという形には残らなくても、記憶に残る名シーンの主役となった。

 《ライバルから称賛の嵐》岩渕が大技に挑んだ3回目は、すでに競技を終えていた選手だけでなく、スタート地点にいた上位選手にも絶賛された。

 金メダルのガサー(オーストリア)は「アメージングだった。たとえ私の順位が落ちることになったとしても、着地してほしかった」と称えた。

 銀メダルのサドフスキシノット(ニュージーランド)も「歴史的なものをライブで見て興奮した。誰も成し遂げていない技で超スペシャル。いずれ成功することを祈っている」とエールを送った。

 ◇岩渕 麗楽(いわぶち・れいら)2001年(平13)12月14日生まれ、岩手県一関市出身の20歳。

 ☆サイズ 1メートル49、44キロ。

 ☆経歴 一関学院高―法大(2年在学中)。バートン所属。

 ☆競技歴 4歳でスノーボードを始める。中1でプロ転向。中3だった17年の全日本選手権SSで初優勝。同年からW杯に参戦し、12月には米コッパーマウンテンでのBAで初優勝。18年平昌五輪代表に選出され、BA4位、SS14位。W杯通算7勝。レギュラースタンス。

 ☆特技 海外遠征ではキッチン付きの部屋に泊まることが多いことから、10代の頃から料理が得意。得意料理は海外に多いオーブンを使ったグラタンやドリア。和食ではサバの味噌煮。

 ☆趣味 最近ハマっているのが写真。チームのカメラマンから一眼レフを譲り受けて以来、景色やポートレートを撮って楽しむ。競技の撮影をすることも。

 ☆スポ根 プロになるまでは父・和宏さんがコーチ役を務めており、指導ではシビアな一面も。大会では優勝しても内容が悪いと「片道4時間の帰りの車中で、ぶっ通しで怒られたこともあります」。

 ☆友達 数年前から今大会で中国のコーチを務めた佐藤康弘コーチの指導を受けていたため、男子金メダルの蘇翊鳴は友達。電話では英語で話す仲だという。

 ▽フロントサイド(FS)トリプルアンダーフリップ 利き足が右の岩渕の場合は、左足前で飛び出し(フロントサイド)、後ろ向きに縦3回転(トリプルアンダーフリップ)する技。ビッグエア女子では、斜め軸に回転するコークを含め、現在の最高難度はダブル(2回転)。岩渕が成功すれば公式戦では世界初とみられる超大技だった。

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