バド男子複・遠藤大由、託し託された夢の続き 元相棒・早川コーチと「もう4年」

[ 2020年6月9日 05:30 ]

2020THE STORY~飛躍の秘密

東京五輪の男子ダブルスでメダル獲得を狙う遠藤(右)と、元ペアの早川コーチ(日本ユニシス提供)
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 バドミントンの男子ダブルスで渡辺勇大(22)と組み、東京五輪のメダルを狙う遠藤大由(33=ともに日本ユニシス)には、固い絆で結ばれた存在がいる。ペアとして16年リオデジャネイロ五輪を戦った日本ユニシスの早川賢一コーチ(34)だ。二人三脚で歩む元ペアの証言から、寡黙な日本代表最年長のベテランが歩む道のりを紹介する。 

 ツインのベッドに横になり、遠藤は早川の話に耳を傾けていた。16年9月22日。ジャパン・オープンで8強入りを逃した夜、東京・新宿の宿舎で当時ペアを組んでいた早川は切り出した。「俺、今年でやめるわ。燃え尽きた。ヒロ(遠藤)はまだやれる。もうちょっとやった方がいいんじゃないか?」。遠藤は相棒の引退を了承した上で、悩んだ様子だった。「これからどうしようかな…」

 その1カ月前のリオ五輪。男子ダブルス初のメダル獲得が期待された早川、遠藤組は最高の状態だった。だが、1次リーグ3戦目の当日に悲劇が起きる。午前の調整練習中、早川がぎっくり腰を発症。治療に全力を尽くしたが、本調子には戻らず、無念の準々決勝敗退となった。

 敗退後、感謝の言葉を伝えた早川に、遠藤は言った。「おまえが動けないと思って、めっちゃレシーブしたわ」。顔色一つ変えず、遠藤が広範囲をカバーしていた。早川はいつも後衛から援護してくれる相棒が、さらに頼もしく思えた。「僕はこれ以上強くなれない。遠藤は五輪後も状態をキープして、燃え尽きていなかった」と早川。メダルへの思いを遠藤に託した。

 新たな歯車も動き始めた。ジュニア年代で活躍した渡辺が16年に日本ユニシス入り。遠藤と渡辺が即席で組んだリオ五輪後の全日本社会人選手権を制した。現役続行か引退か。揺れる遠藤に、11歳差の後輩が可能性を見せてくれた。「遠藤さん、組んでください」。後輩からの熱いオファーを受け、晩秋には正式にペアを結成。早川は指導者として、夢の続きを見る覚悟を決めた。

 早川は新たな挑戦を決断した遠藤の言葉に、留飲が下がる思いがした。「もう4年、頑張ってみるわ」――。あの夜、歯切れの悪かった相棒は、前を見つめていた。

 選手とコーチ。再び二人三脚の日々が始まる。小学生から知り合いの同い年。コンビとして6年、積み重ねたあうんの呼吸もある。早川は「仲がいいので、遠藤との関係性は変わらない。いきなり“コーチ”と呼ばれても困りますよ」と笑った。

 堅守で世界と渡り合った2人の信条は「レシーブの強い選手が勝つ」。早川とは右利き同士だった遠藤だが、左利きの渡辺と組んでのローテーション(前衛と後衛の切り替え)への適応が急務だった。最善の位置取りで次の一手に備えるローテーションは、ダブルスの生命線。チームの練習メニューには遠藤の意見も反映させ、状況別のパターン練習や変則のリターンも組み込んだ。全てはレシーブ向上のため。指導者と選手に分かれても、2人が描く絵は同じだった。

 17年の全日本総合選手権優勝で手応えをつかんだ遠藤、渡辺組はトップランカーへと成長していく。日本B代表コーチを兼ねる早川は、トップチームにあたるA代表の転戦に同行しないため、毎試合必ず映像をチェックし、LINEで意見交換を行う。重視するのは「遠藤はどう感じたのか。(課題を)どう練習に取り入れていくか」だという。

 今年3月、遠藤は早川とのペアで3度決勝に進んでいた伝統の全英オープンを初制覇。壁をこじ開けた直後に、五輪1年延期が決まった。活動自粛期間中、2人はリモート飲み会で熱く語り合った。その場で遠藤は「もし今年8月に五輪があれば、自分が考えているプランは間に合わなかった。まだまだローテーションで改善の余地がある」と明かした。その言葉に共鳴した早川は「ピークを五輪に合わせられれば、メダルが獲れる」と期待を込める。強固な信頼関係で、来夏へと向かう。

 ▽早川、遠藤組のリオ五輪VTR 世界ランク8位ながら、3試合で競う1次リーグで優勝候補の中国、インドネシアペアに2連勝。早川のぎっくり腰発症後、インドペアとの第3戦を落としたが、2勝1敗で8組が出場する決勝トーナメントに進出。準々決勝では世界ランク22位と格下の英国ペアに敗れベスト8に終わった。

 ◆遠藤 大由(えんどう・ひろゆき)1986年(昭61)12月16日生まれ、埼玉県出身の33歳。小松原―日体大を経て09年日本ユニシス入社。渡辺と組んで18、19年ツアーファイナル準優勝。19年アジア選手権優勝。世界ランキング5位。1メートル72、72キロ。2児の父。

 ◆早川 賢一(はやかわ・けんいち)1986年(昭61)4月5日生まれ、滋賀県出身の34歳。比叡山―日大を経て09年日本ユニシス入社。10年から組んだ遠藤とは全英オープン準優勝3回、15年世界選手権3位。17年から日本代表Bのコーチも兼任する。1メートル77、79キロ。

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