データで見る八村の第17戦 八村を押しのけたジェームズの身体能力 100Mは10秒台

[ 2019年11月30日 16:04 ]

レイカーズのジェームズをかわしてゴール下でシュートに持ち込む八村(AP)
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 八村塁(21)はレイカーズ戦で16得点と8リバウンドを稼いだが、ブロックショットも3回浴びるなどリーグ全体で首位を走るレイカーズをぐらつかせることはできなかった。

 印象深かったのは第2Qでのひとコマ。八村は自陣ゴール下でレブロン・ジェームズ(34)とリバウンドに備えてポジション争いをしていたのだが、ボックスアウトするどころが、逆にジェームズに左腕1本ではじき出されてしまった。リングをこぼれたボールはジェームズの真下には来なかったが、もしそこに落下していればコーチ陣に怒られてしまう光景になっていたはずだ。

 とは言ってもフィジカルで負けてしまう選手はなにも八村1人ではない。2003年のデビュー以来、キャバリアーズでもヒートでもジェームズは攻守両面で「1対1」を制し続けている数少ない万能型のフォワード。だからこそ土壇場ですべてを背負えるクラッチ・プレーヤーとして活躍を続けている。

 パワーがあるのは腕だけではない。ウィザーズ戦ではその能力を発揮する場面がなかったが、206センチ、113キロのボディーを支える超高性能のエンジンは、大殿筋や太腿を中心とする下半身に搭載されている。

 2013年にスポーツイラストレイテッド誌がジェームズの歩幅について言及したことがある。NBAのコートの縦の長さは94フィート(28・65メートル)だが、ジェイムズはこの長さをわずか9歩でカバーできるというのだ。NBA選手の平均は13歩。もし体育館に行ってそこに国際規格サイズのバスケのコートがあったら、端から端までぜひステップしてみてほしい。あなたは9歩目でいったいどこにいるだろうか?(私はハーフラインを少し超えたあたりでしたが…)。ジェームズがギアをトップに入れると歩幅は318センチ。それは何を意味するかというと、誰よりも先に前にいる相手に追いつけるということだ。

 2016年のファイナル最終第7戦。キャバリアーズの一員だったジェームズは89―89で迎えた残り1分50秒、速攻に出たウォリアーズのアンドレ・イグダーラ(35=現グリズリーズ)を敵陣の左サイドから追走。イグダーラがレイアップに入った瞬間、背後からその空間に侵入してバックボードのわずか手前でボールをはたき落とした。

 「ザ・ブロック」と称されるこのビッグプレーがものをいってキャバリアーズは93―89でウォリアーズを下して優勝。スポーツ専門局のESPNによれば、「ザ・ブロック」でのジェームズの走行距離は88フィート(26・82メートル)で始動からブロックにかかった時間は3秒。ここから換算される100メートルでのタイムは11秒19で、89センチほどジャンプしたあと、リングより30センチ高い335センチの位置でボールを右手ではたいている。

 微妙なスピード?いやいやとんでもない速度だ。なにしろそこにいたるまでジェームズはすでに45分出場。1000キロカロリー以上を消費した状態で休む間もなくその“一瞬”を駆け抜けたのだ。別の試合の画像を解析すると瞬間最速で100メートルを10秒9相当のスピードで疾走。クイックネスを生み出すのはふくらはぎだが、加速を生み出すのは太腿とお尻に盛り上がる大殿筋で、その量と質がNBAの選手の中でおそらく傑出していると推察される。

 ジェームズはコートをタイヤをひきずって走るトレーニング風景を公開したことがあるが、おそらく加速力を高めようとする陸上の短距離選手や、高速下で受ける雪面からの振動を最小限に抑えようとするスキーのアルペン競技の選手たちのトレーニングを豊富に取り入れているはず。そうでなければ、驚異的な歩幅と加速力と跳躍力は絶対に生まれてこない。

 レイカーズ戦で八村が“フルスロットル”で走る場面はほとんどなかった。第3Qにシュートが外れたあとに5歩ほど懸命に走ったが、ボールが来なかったためにそこでブレーキがかかった。試合全体を見てもこの日、彼が100メートルを11秒台相当のスピードで疾駆する場面は皆無。試合の展開ゆえにそうはならなかったのだが、もしジェームズを背後に置いてワンマン速攻にいったら気を緩めてはいけない。ジェームズの凄さは、視界から消えたときに感じるものだということを覚えておいてほしい。(高柳 昌弥)

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2019年11月30日のニュース