家族のための42万円 もしそのお金があったらあなたは何をしますか?
【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】米スポーツ界のビッグイベント、男女バスケットボールの全米大学選手権(NCAAトーナメント)はビラノバ大(男子)とノートルダム大(女子)の優勝で幕を閉じた。どちらも全米が熱狂。優勝が決まる日はどこに行ってもこの話題で盛り上がる。男子決勝(テキサス州サンアントニオ)が行われた2日、ニューヨークは雪。大リーグ・ヤンキースのホーム開幕戦は延期となったが、おそらく出場校の地元ではないにもかかわらず、野球を見る必要がなくなったヤンキース・ファンはバスケをテレビで観戦したことだろう。
さて男子で4強、いわゆる「ファイナル4」に勝ち残ったカンザス大にはユドーカ・アズブーキー(18)という2年生がいた。2メートル13、127キロ。すでにかつてNBAマジックやレイカーズで活躍したシャキール・オニールと比べられている巨漢センターだ。
ナイジェリア南部デルタ州の出身。13歳のとき、NBAと国際バスケットボール連盟(FIBA)が共同で展開している社会貢献活動「バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(国境なきバスケ)」で関係者の“アンテナ”に引っかかった。そして米フロリダ州ジャクソンビルの高校に留学。みるみると頭角を現し、強豪校のひとつカンザス大に進学した。
その彼が「ファイナル4」に母フローレンスさんを招待した。全米大学体育協会(NCAA)では、勝ち残った4校の選手には家族招待費用として最大4000ドル(約42万円)を支給する規定がある。そのシステムを利用して自分の晴れ舞台に最愛の母を呼んだのだ。
私自身もそうだが、その親孝行がどれほど難しいものだったかは日本人の感覚では理解しづらいかもしれない。なにしろ彼が最後に母に会ったのは米国に留学する直前の13歳。つまりもう5年以上も2人はお互いの目を見ていない。
「故郷に戻るのは簡単なことじゃない。いろんなことが起こってしまう。一方で自分は勉強しなくてはいけなかったから、その両方をこなすことはできなかった」。
日本でもニュースで「ボコハラム」というテロ組織の名を聞く機会が多いことだろう。そのボコハラムの拠点はナイジェリア北部。アズブーキーの故郷は南部だが、それでも体がひときわ大きな彼が街中をうろうろするには、身の安全の確保に神経をすり減らすのかもしれない。彼は抱いた「不安」の具体的内容には言及していないが、「帰ったら戻ってこれないかも」という揺れ動く気持ちが、母との距離を遠いままにした原因かもしれない。
旅費はNCAAが負担。でも他の選手と違って、それだけでは母親をサンアントニオまで連れてくることはできなかった。なにしろ旅券(パスポート)を持っていないし、米国への査証(ビザ)もない。そこでカンザス大関係者が動いた。政治家もサポート。ナイジェリア政府に事情を説明して“迅速な処理と手続き”を求めた。それでも物事はスムーズには運ばない。身支度を整えたフローレンスさんはボランティアに導かれて自宅から917キロも離れた首都アブジャの大使館まで赴くが、ビザ発給の通知を受けたのはその大使館の中だった。
さあ米国へ…。ところがこれもうまくいかない。エール・フランス航空はちょうどストライキに突入したばかり。パリ経由米国行きの代替え便を探すのにまたひと苦労することになった。
かくして多くのお金と時間と関係者のサポートのおかげでフローレンスさんは試合直前にアリーナにたどり着いた。
「母は本当によく働く人。バスケットボールのことは何もわからないし、ましてや試合を見たこともない。でも僕の姿を見てもらえることがとてもうれしかった」とアズブーキー。故郷にはインターネット環境が整っておらず、電話による会話も2〜3週間に一回だったが、5年ぶりに親子は故郷とははるか離れた異国の地で再会した。
「ナイジェリアを出発するとき、母は僕に聖書を握らせて“心の中にもいつも聖書を!それを忘れないで”と言いました。その母が僕を育ててくれたんです。だから彼女のために頑張りたい」。
3月31日の準決勝。カンザス大はビラノバ大に79―95で敗れた。アズブーキーは26分出場して8得点と5リバウンド。決して満足のいく内容ではないし、敗戦はさぞかし悔しかったことだろう。ただ、彼が手にした4000ドルは人間にとって最も大切なものに生まれ変わった。
13歳でアフリカを旅立った少年。5人きょうだいの末っ子だが、ずいぶんと大きくなった。さてフローレンスさんの目にはどう映ったのだろうか?
3月30日午後11時30分。人がまばらになったサンアントニオ国際空港のロビーで、1人の女性を力強く抱きしめる大柄な青年の姿があったという。ホテルから空港には「お願いだから1人で行かせてほしい」と関係者に懇願したそうだ。試合前に泣くわけにはいかないと思ったのだろう。なので2人の“物語”はここで終わっている。でもそれでいい。ナイジェリア発米国行き。長く遠くそして愛にあふれた旅だった。(専門委員)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市小倉北区出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に7年連続で出場。
2018年4月4日のニュース
-
八角理事長が謝罪 救命処置の女性に土俵下りるアナウンス「不適切でした」
[ 2018年4月4日 23:59 ] 相撲
-
土俵で救命措置の女性に「下りてください」アナウンス、波紋広がる
[ 2018年4月4日 23:35 ] 相撲
-
入江 100背で5連覇達成「自信があったので、そこに懸けた」
[ 2018年4月4日 22:17 ] 競泳
-
救命処置施す女性に「土俵から下りて」のアナウンス 春巡業で舞鶴市長倒れ…
[ 2018年4月4日 21:57 ] 相撲
-
無名選手が高速水着時代の日本記録を更新「毎年誰かが出すだろうと思っていたけれど…」
[ 2018年4月4日 21:49 ] 競泳
-
小関 復帰戦で100平V 後輩選手に暴力で約3カ月出場禁止処分
[ 2018年4月4日 21:33 ] 競泳
-
池江が日本新で3連覇 小関、入江も代表決める
[ 2018年4月4日 20:37 ] 競泳
-
羽生連覇記念Tシャツ通販開始「パレード盛り上げて」
[ 2018年4月4日 20:19 ] フィギュアスケート
-
レスリング協会 パワハラで伊調選手、栄氏の調査終了
[ 2018年4月4日 18:54 ] レスリング
-
ヒートのプレーオフ進出が決定 1回戦はジェームズのいるキャバリアーズ?
[ 2018年4月4日 18:19 ] バスケット
-
羽生結弦写真展 11日から日本橋高島屋皮切りに全国7都市開催 紀信氏撮影オフショットも公開
[ 2018年4月4日 18:19 ] フィギュアスケート
-
本田真凜 青森山田高に転校、4月から練習拠点も米国に
[ 2018年4月4日 17:27 ] フィギュアスケート
-
“にゃんこレスラー”文田健一郎、入社式でビックリ いきなり新入社員にボーナス
[ 2018年4月4日 14:48 ] レスリング
-
村岡桃佳が始球式 平昌メダル5個で2・8キロ「首がとれそう」
[ 2018年4月4日 14:44 ] アルペンスキー
-
寺本明日香 小柄な体をネタに 先輩社員のつかみはオッケー
[ 2018年4月4日 14:35 ] 体操
-
アーメンコーナーの元ネタはジャズ!?その意外な由来は…
[ 2018年4月4日 13:30 ] ゴルフ
-
宮里優作、藍さんキャディー案は「まだ交渉中です」
[ 2018年4月4日 13:04 ] ゴルフ
-
萩野公介 200自由形を棄権 平井監督「気持ちも体もしんどい」
[ 2018年4月4日 12:11 ] 競泳
-
家族のための42万円 もしそのお金があったらあなたは何をしますか?
[ 2018年4月4日 11:00 ] バスケット
-
貴乃花親方、朝稽古を急きょ公開 PTSDで休場の貴ノ岩も汗流す
[ 2018年4月4日 10:52 ] 相撲
-
松山英樹、もどかしげ…期待度「ゼロ」調子は「最悪」
[ 2018年4月4日 09:29 ] ゴルフ
-
チームIWAIは5敗 世界カーリング男子
[ 2018年4月4日 08:46 ] カーリング
-
池江璃花子 100Mバタ準決で圧巻の日本新も「悔しい」
[ 2018年4月4日 05:30 ] 競泳
-
萩野 自己記録に遠く及ばず「整理するのは時間がかかる」
[ 2018年4月4日 05:30 ] 競泳
-
江原 両肩の痛みも優勝「目標タイムではなかったので悔しいが…ホッとした」
[ 2018年4月4日 05:30 ] 競泳
-
ウッズ お帰り大フィーバー 3年ぶり出場 復活V期待のパトロン大移動
[ 2018年4月4日 05:30 ] ゴルフ
-
フレッシュ松山 優勝予想18番手
[ 2018年4月4日 05:30 ] ゴルフ
-
4度目の出場の池田勇太 珍しい姿に「意外と好評なんだけど」
[ 2018年4月4日 05:30 ] ゴルフ
-
貴ノ岩 春巡業休場理由はPTSD 春場所“強行”出場が原因か
[ 2018年4月4日 05:30 ] 相撲
-
高安 稽古量増やして優勝狙う
[ 2018年4月4日 05:30 ] 相撲
-
高木美帆 振り袖で日体大新入生の門出に花添える「チャレンジする姿勢を忘れないで」
[ 2018年4月4日 05:30 ] スピードスケート
-
体操女子リオ五輪代表 杉原愛子 日女体大の入学式「パーマをかけて女性らしく」
[ 2018年4月4日 05:30 ] 体操