川内驚異の粘走 日本人最高3位も「僕がトップは寂しい」 

[ 2011年12月5日 06:00 ]

日本人トップの3位でゴールする川内

福岡国際マラソン

(12月4日 平和台陸上競技場発着の42・195キロ)
 ロンドン五輪選考会を兼ねたレースで、注目の公務員ランナー川内優輝(24=埼玉県庁)が、2時間9分57秒で日本人トップの3位に入った。練習不足から中盤で遅れ始めたが、粘りの追走で“元祖山の神”こと今井正人(27=トヨタ自動車九州)とのデッドヒートを制した。最初の国内選考会で結果を残し、ロンドン五輪へ大きく前進する快走だった。

 35キロすぎだった。日本人トップを懸けてつばぜり合いを展開した3位の前田と今井の背後から、一度は脱落した川内が猛然と迫ってきた。「走っていたら、頭の中に日の丸が浮かんだ。メーンスタンドに日の丸が揚がるのを見たい」

 30キロ地点では今井と前田に約150メートルも離されていた。しかし長身のサフロノフを風よけにしながら接近。歯を食いしばり、苦もんの表情を浮かべながらじりじりと差を詰め、36・4キロ地点では2人を並ぶ間もなく抜き去った。「野性の勘というか本能だけで走った。苦しいけど一番好きな場面」と振り返る終盤。再び並ばれても38・4キロの給水でペースアップし前田を後方に追いやった。今井には39キロで追いつかれると、抜きつ抜かれつを1キロも繰り広げた。そして合計5度も前後が入れ替わるデッドヒートは40キロすぎに終止符が打たれた。給水地点で、川内はコップの水を上半身にかけ「行くぞ!」と叫んで加速。ラスト2・195キロは優勝したダビリよりも20秒近くも速いタイムでスパート。驚異の粘走で日本人で最初にゴールに飛び込んだ川内は精根尽き果て、医務室に運ばれた。

 結果的に日本人トップの成果は残したが国内のエース格に成長した公務員ランナーは守りに入らない。「僕がトップなのは寂しい。こんなタイムで選ばれるとは思っていない。東京でもう一段上げたい」。惨敗するリスクは覚悟の上で、選考レースとなる来年2月26日の東京マラソンに出るという異例の道のりを決断した。

 公務員ランナーの快走を受け、日本陸連の坂口泰・男子マラソン部長は「川内選手の粘りを見て、実業団の指導者や選手は何かを感じないといけない」と指摘する。そんななか川内は「戦えない選手は行かなくていい」と五輪へのこだわりを見せた。常に世界を意識する男の異例の挑戦はこれからが本番だ。

 ◆川内 優輝(かわうち・ゆうき)1987年(昭62)3月5日生まれ、東京都世田谷区出身の24歳。春日部東から学習院大に進学し、09年に埼玉県庁に入庁。現在は春日部高校の定時制職員として勤務。自己ベストは2時間8分37秒(11年東京)で、今夏の世界選手権では18位に。1メートル72、59キロ。家族は母、弟2人。

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2011年12月5日のニュース