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“準備期間の短さ”は有利!歓喜も悲劇も知る前日本代表監督・西野朗氏がW杯カタール大会分析

[ 2022年8月13日 06:00 ]

地球儀のカタールを指さし笑顔を見せる西野朗氏(撮影・尾崎 有希)
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 11月20日に始まるW杯カタール大会まで、12日でちょうど100日。4年前のW杯ロシア大会で、大会2カ月前に就任してベスト16進出した西野朗氏(67)は、“元参謀”森保一監督(53)が率いる今回の日本代表をどう見ているのか――。ドイツ、スペインと同組になった1次リーグに勝機はあるのか。西野氏に聞いた。

 W杯カタール大会開幕まで、あと100日を切った。西野氏は4年前のこの時点で、監督に就任していなかった。

 「4年前(の同じ時期)は技術委員長で、代表チームは状態がよくなかった。監督を引き受けたのはW杯ロシア大会の2カ月前だった」

 たった2カ月。残された時間はあまりに短かったが、当時の西野氏は選手たちに正面からぶつかって、課題を解決していく。

 「(技術委員長として)選手個々の性格的なこともチーム状況も把握していたのでゼロからではなかった。いい部分を拾って日本らしいチームづくりをしていこうとプラス思考だった。まず欧州を回り、選手と対面でミーティングし“必要な選手だ”という私の気持ちを伝えた。そこに火を付けないとスタートできないと思った。中にはバックアップという役割で入ってもらいたいという選手もいて、ストレートに話した。結果みな状況を理解してチームに入ってくれたと思う」

 カタール大会も準備期間が短い。異例の11月開催となり、Jリーグは11月5日が最終節で、欧州主要リーグも中断する11月の中旬まで試合が組まれる。欧州のシーズンオフに行われるW杯と大きく違う点だ。

 「今回は大会前の合宿が(各国)1週間しかできないが、むしろ日本に有利。選手のメンテナンスをし、戦術を理解させ、戦い方を分析し、個人の情報を与えてなどどれだけできるか。短期間でも日本選手であれば十分緻密に吸収できると思う。それが日本の強み。W杯ロシア大会でも、“もっとミーティングをやってください”という選手もいた」

 1次リーグはドイツ、スペインと対戦する。強豪国との試合といえば記憶に残るのは96年アトランタ五輪。西野監督が率いる日本代表はオーバーエージ枠で加わったブラジル代表のGKジーダとDFアウダイールの連係ミスを突いて勝利、「マイアミの奇跡」と呼ばれた。

 「ブラジルはどう分析しても弱点は出てこなかったが、オーバーエージが入ったことが幸いした。選手たちはブラジルに対して攻撃的に戦いたいと言っていたが、自分たちがボールを持たないと攻撃できない。そのためにチーム全体で守備的に戦う必要もあることを伝えた。選手はJリーグでブラジル人選手と対戦しているので動じることはなかった。私もそんな(守備的な)戦い方はしたくないが、相手が相手。その頃はクラブも代表も強豪を尊重しすぎていた」

 96年はブラジル相手に金星を挙げた。ただ、ロシア大会では強豪の底力をまざまざと見せつけられる。決勝トーナメント1回戦でベルギーに2―0から逆転負けした「ロストフの悲劇」だ。

 「“日本は小国じゃない。自分たちのサッカーをやれば十分通用する”と、選手と共有した。ただ、W杯は最終的に違う空気が流れていると感じ、ワンプレーや一瞬の判断ミスで流れが変わるということを思い知らされた。ベルギー戦も2―0になって、“3点目も取れる”と思っている選手と、“守ろう”と思っている選手がいてバランスが崩れた。私のマネジメントミスだった」

 この時、参謀役のコーチとして隣に置いたのが、U―21日本代表監督だった森保一氏だった。

 「17年10月、技術委員長のときに“ロシア大会が終わったら日本代表監督をやってもらいたい”と(森保氏に)伝えた。五輪と両方やれば、チームづくりもしやすい。W杯を経験して空気を感じてほしいと思った。技術委員会で一致して会長に推挙した。五輪監督はすぐに受けてくれたが、代表は一度は保留された。ロシア大会では、ポイチ(森保氏)は私がやりたいことを浸透させるようにかみ砕いて言ってくれたり、選手が言いにくいことを言えたりする。許容量があった」

 森保監督は4年前、西野氏が成し遂げられなかったベスト8入りを目指している。

 「4年で代表候補のリストが格段に厚くなった。Aチームが3チームぐらいつくれる。そんなに力の差はないし、みんな欧州でもまれて成長し、国内にも伸びている選手がいる。若手も急成長し戦力になることを期待したい。競争が激しくなり、監督には難しい4年間だった。コロナ禍での強化で大変だったと思うが、よくやってきた。W杯では日本サッカーのさらなる成長を見せてほしい」

 ▽マイアミの奇跡 1996年7月21日、マイアミで行われたアトランタ五輪1次リーグ初戦で優勝候補のブラジルと対戦。リバウド、ロナウドら豪華メンバーを擁す相手にシュート数は4―28と完全に圧倒されたが、後半27分にMF伊東が値千金の決勝ゴールを挙げ、1―0で歴史的勝利。ブラジルでは「マイアミの屈辱」と呼ばれる。

 ▽ロストフの悲劇 W杯ロシア大会決勝トーナメント1回戦(18年7月3日)でベルギーと対戦。日本は後半3分に原口、7分に乾のゴールで2―0とリードを奪う。だが、同24、29分と立て続けに返され同点になると、アディショナルタイム4分にカウンターからシャドリに決められ、逆転負けした。会場となったロシア南西部の都市名から、ロストフの悲劇と呼ばれる。

 ◇西野 朗(にしの・あきら)1955年(昭30)4月7日生まれ、埼玉県出身の67歳。浦和西―早大―日立でMFとして活躍。大学1年生から日本代表に選出。アトランタ五輪代表監督、柏、G大阪などの監督を経てW杯ロシア大会で日本代表監督を務めた。19年からはタイ代表監督も務めた。

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